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2014年11月26日 第3回労働政策審議会電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律の在り方に関する部会 議事録

政策統括官付労政担当参事官室

○日時

平成26年11月26日(水) 16:00~18:00


○場所

厚生労働省 労働基準局第1・2会議室(16階)
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)


○出席者

【公益代表委員】

勝部会長、河野委員、中窪委員、仁田委員

【労働者代表委員】

内田委員、新谷委員、蜷川委員

【使用者代表委員】

井上委員、川口委員、鈴木委員

○議事

○労政担当参事官室政策企画官 部会長が少し遅れていらっしゃるようなので、部会長が見えるまで、部会長代理の仁田委員に進行をお願いしたいと思います。

○仁田部会長代理 皆様、お忙しいところお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。ただいまから第3回労働政策審議会電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律の在り方に関する部会を開催いたします。議事に入る前に、まず事務局から定足数等についての御報告を頂きたいと存じます。

○労政担当参事官室政策企画官 まず、昨日、視察に御参加された委員の皆様、長時間にわたりありがとうございました。視察の報告については、次回にさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 本日は、公益代表委員の勝部会長が少し遅れて御出席いただく予定になっております。したがって、現時点での出席委員は9名となっておりますので、定足数を満たしておりますことを御報告申し上げます。

○仁田部会長代理 それでは早速、議事に入りたいと思います。資料1ないし資料3が配布されておりますので、それについてまとめて事務局から御説明をお願いしたいと思います。

○労政担当参事官室政策企画官 それでは資料13まで、まとめて説明させていただきます。資料1が電気事業の労使関係についての資料で、1-11-21-3と分かれております。資料2が諸外国の関係、資料3がスト規制法と争議権の保障の関係の資料となっております。まず、資料1-1を御覧いただきたいと思います。

 電気事業の労使関係について、事務局から、全体的な状況についての資料です。1ページです。昭和52年のスト規制法調査会報告の提言において、「労使の不断の意思疎通」等について期待するということでした。この提言を受けて、電力10社の各労使トップレベルが出席する電気事業労使会議が設けられています。詳細は後ほど、別の資料で御説明いたします。

2ページは、参考として付けております。昭和48年のスト規制調査会設置後の、スト規制法の対象外も含めた電気業全体の争議行為件数と、中労委への争議行為予告件数をまとめたものです。統計によると、以下のとおりとなっております。昭和48年以降減少傾向にあるという状況になっております。

 そこで、注1と注2を御覧いただければと思います。注1は労働争議統計調査の中で電気業ということで、いわゆるスト規制法の対象外の事業も含まれている数字というように、御理解いただければと思います。注2にある争議行為予告件数は、都道府県と都道府県労委に通知されているものは含まれておらず、中労委に報告されているもの、すなわち2以上の都道府県にわたるもの、又は全国的に重要な問題に係るものについて、中労委に報告されている件数となっております。注2に書いておりますように、これは必ずしも単組ごとに提出されているわけではなく、例えば電力総連の場合、同時期の各単組の予告通知を一括して提出しておりますので、統計上、近年は1件というようにカウントされております。争議行為自体は平成19年以降、ゼロ件となっておりますが、予告件数はここ最近1件です。平成23年には震災の直前に1件予告が出ておりますけれども、平成24年はゼロ件という状況になっております。資料1-1については以上のとおりです。

 続いて、資料1-2と資料1-3です。1-21-3については電事連、電力総連の御協力を得てまとめていただいた資料です。こちらも事務局からまとめて説明をさせていただきます。まず資料1-2で、労使関係全体の枠組みについて説明し、補足的に資料1-3の電力総連からの資料で説明をしたいと思います。

 資料1-23ページが労使関係の全体図ということで、それぞれ国レベル、産業レベル、企業レベルで使用者側組織、労働者組織があるということを図示したものです。

4ページが電気事業連合会(電事連)の概要です。電気事業の健全な発展を図り、もって我が国の経済の発展と国民生活の向上に寄与するという目的で設置されており、会員企業は一般電気事業者、電力会社10社で構成されています。沿革は、昭和27年に9電力会社で設立されて、平成12年には沖縄電力が入会されているということです。

5ページも電気事業連合会(電事連)の概要等の続きです。会員企業の概要ということで、電力10社のそれぞれの資本金、従業員数、販売電力量があります。従業員数は合計13万人弱となっております。参考として卸電気事業者についても記載していただいております。

6ページは労働側ということで、全国電力関連産業労働組合総連合(電力総連)の概要です。電力総連については、電力関連産業における産業別労働組合であり、10の地域別組織と2つの職域組織で構成され、230余りの単組が加盟されています。昭和44年には前身となる全国電労協の結成、昭和56年には電力総連の結成大会が開かれております。

7ページが、産業レベルにおける労使関係です。まず、先ほどの事務局の資料でも御説明した、昭和52年のスト規制法調査会の提言に基づいて設置された、「電気事業労使会議」についてです。昭和52年以降に開催されておりますけれども、昭和54年以降は年1回開催されているということで、直近でも平成2610月に開催されております。主な出席者として、経営側は各電力会社の社長、電事連関係者、組合側は各電力労組の委員長、電力総連関係者となっております。相互理解を深めることを目的として、近年の主な意見交換テーマは、電力システム改革、原子力関係等々の課題について意見交換をされているということです。

8ページも、同じく産業レベルの労使関係の会議ということで、「電力中央労使会」についてです。これは昭和43年に電事連と電労連(現在の電力総連電力部会)との間で設置され、年2回程度開催されているということで、平成26年にも2回開催が予定されております。主な出席者として、経営側が電事連役員及び各部長、組合側が電力総連三役及び執行委員です。こちらも基本的な諸問題について、相互理解を深めることを目的に設置されております。主なテーマは、労使双方からの電力業界の動向等に関する報告、電力システム改革等について意見交換がなされています。

 その他の取組についても安全衛生に関する申入れ対応とか、春季労使交渉早期解決に向けた申入れ対応等がなされているということです。

9ページから、各電力会社レベルにおける労使関係です。まず9ページが、労使交渉の窓口です。全社大に関わる案件については本店と本部間での議論を終えた後に、支店や事業所で労使協議を行うことが一般的です。各社で名称等は異なりますけれども、おおむねここに掲げられているような関係図で本店と本部、支店と県本部、事業所と支部・分会という形で協議が行われています。

10ページが、各電力会社における労使交渉等の状況です。まず、団体交渉としてどういう事項について協議がなされているかです。労働協約記載の取扱事項として、協約の改定に関する事項とか、協約に定めのない労働条件の設定改廃に関する事項などを定めて共有されています。労使協議についても、労働協約記載の取扱事項としては業務運営の企画改善に関する重要事項とか、従業員に関係のある諸規程の制定改廃に関する事項等について定めています。

11ページが労使懇談会についてです。主たる出席者として、会社側が社長をトップとした役員クラス、組合側が委員長をトップとした副委員長、書記長、局長クラスが出席された懇談会を開催して、中期経営方針等、経営に係る議題について年12回程度議論をしています。労働協約の締結状況については、各社とも労働組合と労働協約を締結していらっしゃいます。特に前文等で、電気事業の公益性と企業の社会的責任の認識、労使双方の相互の理解と信頼の上に立って生産性の向上、労働条件の向上に努める旨を記載しているものが多いということです。

5-6のその他の取組としては、その他の重要な課題について労使委員会等の場でも、適宜意見交換を行っていらっしゃるということです。

12ページが至近の争議実績ということで、至近の統一ストである昭和49年以降の争議行為について記載していただいております。昭和49年は9電力労組による争議行為ですけれども、昭和535457年にもそれぞれ単組で行われております。ここは当然のことながら、スト規制法に抵触しない範囲内でのストを実施しています。以上が資料1-2です。

 続いて資料1-3、電力総連のほうで補足的に作成していただいている資料です。その2ページです。先ほども電力総連の概要がありましたけれども、構成・組織等についてより詳しく記載されております。構成総連には10の地域別の組織、2つの職域組織があるということで、加盟組合232、組織人員216,486名となっております。また、それぞれ電力部会等の部会組織や業種別の連絡会があります。電力部会の内訳としては北海道から沖縄まで10社、一般電気事業や卸2社と日本原燃の13単組で117,545名の人員となっています。

3ページに電力総連の沿革ということで、少し詳細な記載があります。昭和22年に電産が結成され、昭和29年に電力労連の結成、昭和40年に全電力の結成、昭和56年に電力総連が結成され、平成5年、平成8年には電力総連・全電力の統一大会で産別統一が実現されたという沿革です。

 今の沿革にも関わりますけれども、特に4ページに電産の成り立ちと崩壊ということで、昭和22年に電産が結成されております。権限としては交渉権・ストライキ権・妥結権等を得ました。その後、昭和27年にいわゆる電産ストがありました。この賃上げ闘争の中で、社会的な批判や組合員などからの批判もあって、脱退の動きが相次いだということです。その後、昭和29年に民主的労働運動を旗印として電力労連が結成され、交渉権・ストライキ権・妥結権は各労働組合が保有しているということです。

 続いて5ページは、規約・労働協約及び労使協議の実態です。先ほども労働協約の話が少しありましたけれども、具体的に電力総連の規約と、ある労働組合の労働協約の抜粋を掲載しております。また、労使協議の中身としては、経営諸課題に関わる課題、経営計画や電力システム改革への対応等について論議をされるほか、職場組合員に関わる課題としては、組織改正や安全衛生管理等について論議がなされているということです。

6ページでは春季生活闘争、いわゆる春闘までの具体的な流れを記載していただいております。1つの例として記載していただいておりますのは、12月の中旬に要求案を決定し、要求案の決定から要求まで、約2か月にわたって職場オルグなどの機関手続を行います。その後、2月中旬ぐらいに労組法に基づくスト権確立について、組合員の直接無記名投票を行います。スト権確立については、注に記載いただいておりますように、各労働組合の組合員の投票による総意に基づいて、労調法上の争議行為の予告を行い、争議行為実施権を確立することを「スト権確立」と言っておりますが、マル3にありますとおり、要求から妥結まで約1か月にわたり交渉をして、ヤマ場の前に労調法に基づくストの予告を実施しているという流れになっており、全体として約3か月の時間を要します。

5-2にありますように、春闘時におけるスト権確立の状況としては、従来、スト権を確立してきたわけですけれども、2011年の春闘は、先ほどの件数の所でも御説明しましたように、東日本大震災後に災害復旧と安全確保を最優先として、統一交渉は中断されました。2012年の春闘についても、最終的にはスト権を確立しなかったということで、社会的影響、職場実態などの状況を見極め、スト権の確立を判断されているということです。

7ページの6-1の最近のストライキの実績については、先ほどの資料と同様に、昭和4957年のストについて記載されております。

6-2の争議行為のルールとしては、これも労働協約の例ですけれども、マル1の双方誠意をもって積極的に交渉を尽くし、解決に努める、マル2の争議行為を行う場合には、日時・方法等をあらかじめ通告する、マル3の会社と組合はあらかじめ、若しくは争議の都度、争議不参加者について協議をするという争議行為のルールを、労使で取り決めて行っています。

8ページは、近年の職場の実態と安定供給に対する想いです。近年の職場の状況として労働条件の低下、企業業績の悪化等の不安材料がある中で、職場の実態、将来不安によるモチベーションの低下、人材確保等の課題等が掲げられております。そのような中で安定供給に対する想いとして、電力総連の議案書あるいは各単組の議案書の中で、電力の安定供給を支える「現場力」を守っていくという安定供給への想いを記載されています。労使関係に関する資料は以上です。

 続いて資料2、「諸外国における電気事業の争議行為に係る規制等について」です。これは委員の先生方から整理してほしいというお話がありましたので、JILPT(労働政策研究・研修機構)の協力を得て、厚生労働省のほうで取りまとめをさせていただきました。「諸外国の電気事業にかかる争議行為規制」ということで、電気事業の争議行為に関わる法令がどうなっているかを、1ページ目でまとめております。電気事業に限定した争議行為の規制は見られないものの、電気供給を維持するための何らかのシステムは存在しているという状況になっております。

 今回、調査の対象とさせていただいたのは記載の5か国です。イギリスでは争議権自体、他の事業と同様に制限はされておりませんけれども、事業法である電気法の中で、労働争議を含む緊急事態が生じた場合に、担当大臣が電力供給への影響緩和を目的に指示ができるという規定があります。

 ドイツについては判例の中で指摘されていることですが、マルの2つ目にありますように、公共サービスに関連して、争議行為は公共の福祉を顕著に侵害してはならない、個人的・社会的・国家的な需要の充足に必要な最低限の供給に対して深刻な影響を与えてはならない、この最低限の供給に該当するものとして、電気も含まれているということです。

 フランスでは、公共サービス部門のストライキ権に関する特別規定があります。この中で、一般的に争議権は認められておりますけれども、参考に記載がありますように、判例により「公共サービスを提供する義務のある組織」において争議権を制限できるとされており、フランス電力公社(EDF)による制限が妥当と認められた判例があります。

 アメリカも一般的に争議権は認められておりますが、二次的ストライキや座り込みストライキ等は禁止されています。アメリカでは鉄道・航空事業には、別途法律が適用されているという状況になっております。

 韓国については労働組合及び労働関係調整法の平成18年の改正で、ここに記載のとおり規制が追加されております。国民経済に及ぼす影響が大きい公益事業であって、その業務の停止・廃止が著しく国民の日常生活や国民経済を阻害する必須共益事業のうち、大統領令で定める必須維持業務については、業務の正当な維持・運営を停止・廃止・妨害するような争議行為を行うことはできないということで、一定の必須維持業務については業務の正当な維持等を妨害するような争議行為が禁止されています。この必須共益事業の中に電気事業も含まれております。この必須共益事業の中の「必須維持業務」については、次のページに具体的に政令で定められている業務を記載しております。いろいろな事業がありますけれども、電気事業については4番目に、発電部門や送電・変電・配電業務、電力取引部門それぞれの部門の必須維持業務が記載されておりますので、これらの業務に関しては、業務の正当な維持・運営を停止・廃止等するような行為を行うことができないとなっています。

 次のページに参考としてお付けしているのが、諸外国の公益事業に関する争議行為規制として、どういうものがあるかというものです。イギリスの場合は全ての事業に関わるものですが、争議行為の事前に組合員の投票による過半数の支持があればとか、使用者に7日前の予告が必要といった制度があります。職権調整制度としてACAS(助言あっせん仲裁局)は、職権であっせんを開始できますけれども、参加するかどうかは当事者の任意です。

 フランスについては公共サービス部門の規定です。予告制度としては使用者に対する5日前の予告が必要となっております。また、フランスでは緊急調整制度のような制度として、「195917日の命令(オルドナンス)」及び「国防法典」によって、ストライキ参加者に対して職場復帰を命じることができる条件・手続についての規定があります。

 アメリカでは、医療事業については使用者に10日前の予告が必要という特別の規定があります。また、これは全ての事業一般ですけれども、労働協約を更新・改廃するに際し、60日前に使用者に提案する必要があり、その間は争議行為ができないという仕組みになっております。これも医療だけは90日前となっております。アメリカの緊急調整制度としては、争議行為により国民の健康・安全を脅かすおそれがあると大統領が判断した場合、国家緊急事態の場合には、連邦裁判所が最大80日間争議行為を差し止め、その間に争議解決のための調整を行うことができるという規定があります。

 韓国も全ての事業に共通しており、争議行為予告自体の規定はないのですが、事前に組合員の投票により過半数の支持がなければ、争議行為が実施できないという規定があります。また、労働争議は、労働委員会による調停、仲裁の調整手続を事前に経なければならず、調停、仲裁に付された場合には10日間、公共事業の場合は15日間の争議行為の禁止という規定があります。緊急調整に関する制度としては、公益事業に関する争議行為で著しく国民経済を害し、国民の日常生活を危うくするおそれがある場合には、雇用労働長官による緊急調整ができ、その間の争議行為を禁止とする規定があります。

4ページで諸外国の電気事業における主な争議事例を掲載しております。網羅的というよりは、幾つかのものをピックアップして記載させていただいたものです。各国ともストの実績はありますけれども、ドイツなどは警告ストライキということで、本格的な争議行為の前に行う短期間の職場放棄の警告ストライキという形で実施されているものもあります。停電が発生したものとしては、フランスの例やアメリカの例があるということで、諸外国でもストライキが行われる場合もあり、停電が発生しているものも幾つか見られるという状況です。資料2の諸外国については以上です。

 資料3が「スト規制法と争議権の保障について」ということで、改めて法的な整理の資料をお付けしておりますので説明いたします。1ページが憲法の保障との関係です。第1回目でも資料を御説明しましたけれども、改めて整理をしております。憲法28条では、労使間の対等な交渉を促進するため、労働者に団結権・団体交渉権・団体行動権を保障する旨が規定されております。これらについては労働組合法等で具体化されているという状況になっております。この団体行動権の中に争議権が含まれるわけですが、争議行為及びその他の団体の行動を一定限度で保障する権利ということで、労働三権については労働組合法等で具体化されているということを、改めて整理させていただいております。

2ページが、今御覧いただいた憲法上の争議権と労働組合法上の民事免責・刑事免責との関係です。この憲法上の争議権は全ての争議行為を保障する権利ではなく、争議行為の主体、目的、態様上の限界を有しています。この限界が正当性の範囲となると解されております。争議行為は争議権の保障の範囲にある場合、つまり正当性が認められる場合には、刑事・民事免責を享受するとされております。裁判例や行政の通知、労働法のテキストにおける記載を下に抜粋しておりますが、同趣旨のことが記載されているものです。

3ページでは、公務員と民間労働者における争議行為の禁止の比較をしております。国家公務員・地方公務員については、正当な争議行為も含めて、一律に争議行為が禁止されています。いわゆる「争議権の制約」と言われています。一方、民間労働者については正当な争議行為は、当然、争議権として保障されているのですが、正当でない争議行為のうち、人命の安全保持及び物的施設の安全や、国民生活及び国民経済への支障を生じないようにするという観点から、一部禁止されているものがあります。

 具体的には下の囲みの中に記載しております。1つは労働関係調整法第36条に基づく工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廃し、又はこれを妨げる行為について規制がされています。それから、いわゆるスト規制法がございます。また、船員法の中でも労働関係に関する争議行為、船舶が外国の港にあるとき又はその争議行為により人命若しくは船舶に危険が及ぶようなときには、これをしてはならないという規定があります。このように正当な争議行為と、正当でない争議行為についての整理をさせていただいたという資料です。

4ページは、正当でない争議行為の一部を禁止している法律の1つとして、スト規制法があるわけですが、この「スト規制法」において、電気事業を対象として制定した際の考え方です。これは第1回目でもお付けした資料です。制定時の提案理由の説明の中で、2つ目のパラグラフに下線を引いてありますように、前年冬に行われた電気事業及び石炭鉱業の両ストライキが、国民経済と国民の日常生活に与えた影響と損害が甚大なものであったという状況、それから、次のパラグラフにありますように、電気事業及び石炭鉱業の特殊性及び重要性並びに労使関係の現状に鑑みて、本法案を立案するに至ったと。そしてその次にありますように、公共的性質を有する産業は、電気産業及び石炭鉱業に限るものでないことは申すまでもないところですけれども、今回、いわゆる基礎産業中最も基幹的な重要産業であり、しかも前年に現実に問題となった電気事業及び石炭鉱業について、必要な限度の規定を設けたいということで、制定時の提案理由が説明されています。

 続いて5ページです。スト規制法において、それぞれ禁止している正当でない争議行為というのがどういうものであるか、通知等も引きながら少し詳しく記載しております。スト規制法は、労使双方の争議行為の方法のうち、「電気の正常な供給を停止する」等、消極的な行為も含めた社会通念上正当でないものの範囲を明確にして禁止することで、国民経済や国民の日常生活に支障が生じないようにしているものです。

 具体的に禁止対象、あるいは対象外としている争議行為の例を挙げております。禁止対象となる争議行為の例として、まずは積極的行為です。スイッチ・オフ等については正当でないということで、通知等でも明確に示しております。また、正当でない行為は通常、積極的行為になるわけですけれども、消極的行為、いわゆる「労務不提供」のうちでも社会通念上否とされるものについては正当でないことを明らかにしております。通知で具体的に記載しているものとしては、給電指令所・発変電所の職場放棄等の電気の供給系統を混乱させる争議行為、送配電線の保守要員が事故の復旧作業に従事せず、電気供給を停止させる争議行為、これらの消極的行為についても正当でないものとして明らかにしたものです。

 一方、禁止対象外の争議行為の例としては、同じく通知で記載しておりますように、発変電所、給電指令所等における庶務、機械器具の定期の手入れ、点検等、あるいは集金スト、検針スト、出納業務スト、調定スト、決算スト等の事務ストについては、禁止対象外とされております。

 ※で2つ掲げておりますが、これは昭和52年のスト規制調査会の提言を踏まえ、通知で改めて明らかにしたものです。上の※にありますとおり、人員の配置及び稼働の状況、業務の運行状況等、諸般の事情を考慮すれば、当該行為が電気の正常な供給に直接に損害を生じないことが客観的に明らかな場合は対象外となります。また、2つ目の※にありますように、あらかじめ電気の正常な供給に障害を生じることがないように労使間で十全の協定がなされ、それに従って現実に措置が取られる場合は対象外ということで、その禁止対象外の争議行為を、昭和52年の通知で明らかにしたものです。

 一番下に参考として、一般的に労務不提供については、正当な争議行為の範囲となることが多いわけですけれども、特に電気事業と同様に、労務不提供であっても正当な争議行為と認めていない例として、病院等労働者に関する通知があります。病院等の労働者については、病院等で診療を行わなければ通常、本人の生命身体に危害又は具体的危険を生ずると客観的に認められる全ての者に対して、その限度で、かかる結果の防止上必要な施設の正常な維持・運行、すなわち必要な診療その他の業務の遂行のための労務の給付を停止し得ないということで、労務不提供ができないということを通知で明らかにしております。

 続いて6ページは、公益事業に関する規制です。これも第1回目に説明させていただいたものを、改めてお付けしております。公益事業については、労調法に特別の調整制度があるということで、「公益事業」とは記載のマル1からマル4までの事業を指しております。1回目と重複しますので、制度の詳細は省略しますが、項目だけ再度御確認いただくと、1点目に公益事業に係る強制調停、職権調停の制度、2点目に公益事業に係る争議行為の予告の制度、3点目に公益事業等に係る内閣総理大臣による緊急調整の制度があります。

 緊急調整の制度については、7ページで、スト規制法と労調法の緊急調整の関係について整理しています。スト規制法と緊急調整については、ともに国民経済や国民生活に多大な支障を生じないようにするために、争議行為を制限するものです。スト規制法については、正当でない争議行為の範囲を明らかにし、未然に防止するものです。一方、緊急調整については、50日間ということになりますが、一定の期間、通常の争議行為を禁止し、その間に調停、あっせん調停、仲裁等、あらゆる手段を講じて労働争議を調整解決することを狙いとするもので、両者の主眼の違いを整理したものです。

8ページ以降、参考としてお付けしている資料が何点かありますので、御紹介いたします。1つ目は、これも委員から御指摘のあった、他法令の「公益事業」で電気事業がどういうように扱われているかということです。「公益事業」の範囲は、各法律によって異なります。上の四角の囲みは、労働関係調整法の公益事業です。下の囲みで災害対策基本法、国民保護法、新型インフルエンザ等対策特別措置法における「指定公共機関」という概念があり、その中の公益的事業を営む法人として電気、ガス、水道、運輸、通信、郵便等が定められています。電気だけを定めているものではありませんけれども、それぞれ緊急時において電気、ガス、水を安定的・適切に供給するために必要な措置等が求められているものです。下に掲げているその他の法令における「公益事業」の規定例においても、電気事業がほかのガス、水道等の並びで規定されているものがあります。

9ページ、10ページにお付けしているのが、日本電信電話公社の民営化時の特例調停制度に関する資料です。いわゆる旧三公社、国鉄・電電・専売の職員は公務員ではないのですけれども、事業の高度の公共性等に鑑みて、争議権が制約されておりました。これらの公社が民営化する際に、どういう対応が取られたかということです。そのうち、電電公社については他の公社と異なり、電信電話事業が独占事業であって代替手段に欠いていたことから、昭和604月の民営化に当たって当分の間、特別の調停制度が設けられておりました。

 下にその法律があります。これは労働関係調整法の附則に設けられた規定です。第3条で、労働大臣が中央労働委員会に対して調停の請求をしたときには、2項で事件の実情及び調停の経過を公表、3項で他の公益事業に優先して処理する、4項で最大15日間の争議行為の禁止ができるということで、緊急調整制度に加えて、特別な調停制度が設けられていたところです。国鉄の際は設けられなかったのですが、NTTの場合には全国一元的に業務を行うといった面で、公共性を考慮して特別調整制度を設けていました。国鉄の場合には一般の民間産業と同じで、特例は設けなかったという説明です。

 次のページに、この特例調停制度の廃止の際の議論があります。この特例調停については、もともと労調法の附則4条に基づいて、3年後に見直しを行うとされておりましたけれども、施行後の諸事情の変化を勘案して、昭和63年10月に廃止されております。その際に、施行後の諸事情の変化として、電話の通信等の基本業務の自動化、労使関係の安定、電気通信事業分野の競争市場の形成が挙げられており、通常の争議行為によっては直ちに通信の途絶を招くおそれが少なくなったことを理由として、昭和63年に廃止されたということです。参考として付けさせていただいております。

 最後に、参考資料については、今御説明した資料の中にも引いていた関係通知の全文をお付けしています。資料の説明は以上です。

○勝部会長 ただいまの「電気事業の労使関係について」「諸外国における電気事業の争議行為に係る規制等について」「スト規制法と争議権の保障について」の御説明について、御質問、御意見等がございましたらお願いいたします。

○鈴木委員 電気事業連合会で作成した「電気事業の労使関係について」の5ページについて、若干補足させていただきます。

 「会員企業の概要」ということで、北海道電力から沖縄電力まで、それぞれの従業員数と合計が記載されています。前回、部会長から御質問がありまして、スト規制法の対象となる方の部門別の人数はどの程度かという質問だったかと思います。これについて正確な人数を示すことが大変困難ですが、その中で何社かの平均の割合ということで、この場で補足ということでお答えさせていただきます。

 スト規制法の対象となる方のうちで、火力や原子力の発電業務に従事している従業員の割合は、全体の従業員の中の1割程度ということです。需給系統運用あるいは送電・変電・配電といった送配電業務に従事している従業員の割合については、従業員全体の中で3割程度です。

○勝部会長 ただいま補足いただいたスト規制法に係る部門の従業員の比率ということでした。

○仁田委員 今日の説明にあったことではないのですが、気になったことがありましたので発言させていただきます。私は中労委の委員もやっていて、JRさんとかの組合が複数あるというケースがあって、大きな組合もあれば、ごく少数の人しか参加していない組合があって、結構複雑な労使関係が発生していますが、電力産業の場合には、そういったような事態は今日存在しているのでしょうか。

○内田委員 資料で、電力総連の中には、一般電気事業者と卸電気事業者で117,000人ぐらいの組織人員がいると報告させていただきました。私の記憶では、1996年までは電力全てではないのですが、企業の中に2つの労働組合が存在していました。1996年に産別統一を行い、それ以降は数年間かけて一本化され、現在は産業別労働組合は電力総連1本、各単組も各企業に1本という形になっています。

 それから、各単組と各個別の企業についてはユニオンショップ協定を結んでおり、全て組合員という形になっています。

○勝部会長 ほかに何か御質問、御意見はございますでしょうか。

○内田委員 資料の説明が事務局からございましたので、その関係について3点ほど意見を述べさせていただき、1点だけ事務局に質問させていただきます。

 まず、電気事業連合会から説明があった、資料7ページにある電気事業労使会議についてです。このような形で、各労働組合と各社長が一堂に会して労使会議を行っています。これはスト規制調査会の勧告により実施しているもので、参加者の声を聞けば、有意義な会議であるという評価はされています。

 ただ、先般のエネ庁の方からの説明もございましたが、電力システム改革の第3弾法案が提出されようとしており、それが仮に実施されたとしますと、労働組合がn個になり、会社もn個になりえます。そうした場合、スト規制法調査会が言われたような、こうした会議体が持てるのかどうか。先ほど仁田先生からもございましたが、現在はユニオンショップ協定で11の労使関係をもってこの会議を行っていますが、仮に発送配分離がされて、全て市場競争に任すということになれば、このようなことはできない。労働組合のない会社も各発電業者の方にお見えになりますので、そういった方も入ってきた場合に、こういった形でどうするのかという課題が残っているということが1つです。

2つ目に、事務局から御説明のあった資料34ページに、かなり古い会議録ですので、これを捉えてどうのこうのと言うつもりはございませんが、下から6行目に、「停電スト、電源スト等は、これに携わる人員は全電気産業労働者中、少数に過ぎず」という記述があります。これはスト規制法を制定した際の考え方です。

 厚生労働省の解釈通達を現場に当てはめ、どこまでがスト規制の対象になるかということを考えるのは、緊急時のことも踏まえると非常に難しいわけですが、電力総連が把握している比率としては、鈴木委員が言われたように、約45割の労働者がスト規制の対象になるのではないかと把握しております。

 そういったことから言いますと、昭和28年当時の「少数に過ぎず」といわれたのは、何をもって言われたのか分かりませんが、現在であれば電力組合員11万人の中の5万人ぐらいは、スト規制の対象になっているのではないかと想定されます。こうした非常に多くの労働者の労働基本権が制約されているという状況が、果たして民間労働者に対する規制として適切かどうかということはあろうかと思っております。

 同じ所でもう1点です。その34行上の所に、「スイッチ・オフ等ほしいままに装置を操作する積極的行為」とあるのですが、この記述は、第1回の委員会でも指摘をさせていただいたとおり、スト規制法を制定した昭和28年にあたかも労働者がスイッチ・オフを行い、社会に大きな迷惑をかけたという形の提案趣旨のように読めるわけですが、第1回部会で指摘した際に、鈴木委員からはこのときの書類は見つからないということでありました。我々としては、労働者がスイッチ・オフを行ったのではなく、発電所の労務不提供によって、電力の供給量と需要の量を合わせなくてはいけなかった使用者側がスイッチを切らざるを得なかったものであると判断しています。この昭和28年のスト規制法制定当時の提案趣旨説明は、過大な表現になっているのではないかと感じています。

 もう1点は厚生労働省に質問です。昭和28年の衆議院の労働委員会で制定したときの国務大臣の提案資料を見ると、実際には、昭和27年に法務委員会で停電ストに関する国会審議が行われております。第1回の本部会の中で、新谷委員から指摘がありましたが、既に労調法の中で緊急調整という仕組みがある中、炭労ストの場合は、緊急調整を行いストを回避したという実績もあるわけです。

 ですから、この法の制定に当たって、どうして労調法にある緊急調整で駄目だったのか、普通のプロセスであれば、緊急調整を行ってもなお解決が不可能であったから、こういった新たな規制を設けるというのが当然の帰結であると思うのですが、昭和27年の法務委員会でも、昭和28年の労働委員会でも、緊急調整や争議行為の予告といった労調法の公益事業規制では解決が不可能であるため、電力労働者だけは屋上屋を架すような、もう1つの法律が必要であるという説明は、明確にされていないと思っております。60年前の資料を引っ繰り返して探してくれというつもりはありませんが、もしそういったものが今お手元にあれば、教えていただきたいと思います。

 長くなって申し訳ございませんが、もう1点です。資料33ページで、民間労働者と公務員の方の争議権の違いを説明されましたが、確かに公務員の方は労働三権が制約されている一方、民間労働者は「正当でない争議行為の一部を禁止」とありますが、労働三権すべてが保障されています。

 民間労働者は、雇用は安定しておりませんし、倒産もあります。なおかつ、労働条件については賃金、一時金も含め、自らが交渉するという形になっているわけです。

 ただし、公務員の方は、労働三権が制約されている代償措置として、身分の保障と人事院勧告があるわけです。民間労働者である電力労働者については、先ほど言いましたよう、労働三権の中で争議権が制約をされている。

 これは補足的なことではありますが、電気料金審査専門委員会という会議体がエネ庁の中にあり、民間労働者たる電力労働者の労働条件も審議会の場で議論をされる。具体的な数字は述べませんが、直接、間接は問わず、そういった水準が個別労使の中で提案される。

 法治国家でありますから、国が民間労働者の労働条件に直接関与しているということは言いたくありませんし、そのようなことはないとエネ庁の方も言っておりますが、委員の方の発言を聞いていると、そういったことも影響しているのではないかと思いたくなるような提案がなされているのです。そうした状況であると、先ほど事務局からは公務員と民間労働者という区別で説明がなされましたが、果たして本当に電力労働者が、民間労働者にふさわしい法体系の中で労働運動を行うことができているのかとさえ思います。本部会の中でも考慮していただいて、御議論いただければと思います。

1点、厚生労働省の方に、電産ストの際には労調法の緊急調整を実施しなかったかどうかという点について、手元にあれば教えていただきたいと思います。

○勝部会長 60年前のことですが、お願いいたします。

○労政担当参事官 当時の詳細な議事録等が今手元にないので、労働関係調整法との関係について、どのように国会で答弁をしたのか等を探してみます。

○労政担当参事官 ただし、改めて今の資料から申し上げます。資料4ページで、そもそもなぜ電気事業、石炭について、こういう立法を特別にするのかというところについては、4ページの上の下線で紹介していますとおり、前年の電産スト等の被害が迅大であったこととか、電気事業等の特殊性、重要性、労使関係の現状に鑑みるとか、あと電気事業等が基幹的な重要産業であること等が述べられており、ここでは正に特別な立法の趣旨が当時説明はされております。

 労調法との関係につきましては、当時そう説明したかということはともかくとして、法律的な整理につきましては、先ほど御説明しました6ページ、7ページ等で、今回、主眼の違いなどについては御説明させていただいている通りであります。

○勝部会長 調停がなされたかどうかということ。

○内田委員 結論としては、電産ストの際には労調法の規定に基づく緊急調整は実施されていないのですが、先ほども述べたよう、本来的にはスト規制法策定前に、労調法の規定に基づく緊急調整を行って、それでも駄目だったから法整備するというのが、1つのプロセスであると思います。

 炭労ストの場合は、第1回部会で新谷委員が言われたとおり、労調法に基づく緊急調整が行われております。なぜ電産ストでは緊急調整が行われず、スト規制法を制定しなくてはいけなかったのかというのを、私が知り得る範囲では、国会の中でそういった質疑なり答弁というのがなかったものですから、事務方でお持ちであればということで質問させていただきました。

○労政担当参事官 補足です。繰り返しになりますが、もう1回こちらでも洗ってはみますが、7ページにありますとおり、緊急調整というのは目的として、早期解決させなければいけないという狙いで調整する、その一定期間争議行為が禁止されるというものですが、今回スト規制法で制限しているのは、そもそも正当ではないということで、未然に防止しなければいけないという点で、これらは違うものということは、今回資料を出させていただいたとおりでございます。

○勝部会長 ほかに御質問、御意見等はございますでしょうか。

○仁田委員 今の緊急調整の話で、記憶だけで資料は持っておりませんが、1952年の争議のときは、石炭のほうで緊急調整が出たわけです。そのきっかけは、当時の炭労が保安要員の引揚げをやると言ったことなのです。保安要員の引揚げというのは、正当な争議行為ではないということになっているもので、実際にやったかどうかは分からないのですが、やるというような話があったので、緊急調整が発動されたという歴史的な経緯があります。

 つまり、電産はどうだったか分かりませんが、その当時の炭労のほうは、幾ら労調法に書いてあっても、もしかするとそういう正当でない争議行為に訴える可能性があると世間に印象を与えたということは、背景としてはあるのかなと思っております。

○河野委員 実は昨日、事務局の方がセッティングしてくださり、電気事業における中央給電指令所はどのような日常的業務を担っているかの現場見学をさせていただきました。私のような普通の消費者から見ますと、非常に高度にコントロールされていて、こういう所で私たちの日々の電気が過不足なく供給されているのだということで、本当に業務に当たる方に感謝しつつ、電気というのはすごいなといろいろと思ったところです。

 それで、今、様々な現在のような状況になった経緯等をお話いただいているのですが、私自身は初回にも申しましたとおり、これまでどうだったかというよりも、これから発電と送配電も含めて、電気事業の事業構造が大きく変わっていくわけです。ですから、現在どういう状況にあって、どのようにやられているかということから、この先どのように現状が変わっていくかというところを、まずしっかり確認すべきだなと、昨日の見学も含めて思ったところです。

 それで、非常に今日の資料で参考になったのが、一番最後にお示しくださった日本電信電話公社、そういえば「電電公社」と言ってたのだなと思って、今は電気通信の世界では全く様変わりしているわけですが、かつて独占事業であった電電公社が、いわゆる民営化するに当たって、やはり特別な調停制度が設けられることになった。それが特別な制度になり、かつその後に廃止されています。

 その過程が、今回の電力システム改革、今まで何十年と日本で行われてきた地域独占安定供給という電力の供給事業が、新たな自由化に踏み出していく。現在も民営化されているので、公社が民営になるというのとは少し事情が違うかもしれませんが、あくまでも独占が自由競争になっていくという過程で、どのような環境変化が起こるのかというところは、今回丁寧に見ていかなければいけないと思ったところです。

 頂いた資料で言いますと、10ページに書いてありますが、特例調停を付け、それを廃止したときの条件として幾つか書いてあります。まず1つは、いわゆる電話の通信等の基本業務が自動化され、そんなに人がいなくても自動的につなぐだろうと。昔は交換手がやっていたのと大分違うと。それから、労使関係の安定というのが書かれています。それから、電気通信事業分野の競争市場の形成があります。この辺りが、電気システム改革が今後3段階に分けて実施されるにおいて、どのように変わっていくのか。

 先ほどの資料等を拝見していますと、例えば労使関係でいえば、いろいろあるにしても現在は様々に話し合う場面設定があって、その中では非常に建設的に、前向きに電気事業の在り方等を労使の方々が話をされているということは、非常によく分かっています。

 つまり、労使関係は今は安定しているというのは、私もそうであろうと資料から読み取ったところですが、今後は地域独占が外れ、特に首都圏でいえば、一番の需要がある所ですから、そういった自由化の波が押し寄せてきたときに、果たして現在のような安定的な労使関係が保てるのだろうかということです。

 それから、どこに労働者側の組織ができて、それがどのような状況で今後組織化され、維持されていくのか。今後に向けて不安なところがございます。

 もう1つ言えば、電気というのは代替の手段が余りないというか、ガスで何とかなるだろうと言われるかもしれませんが、ガスも熱源とすると有効利用できると思うのですが、現在電気が果たしている日本国内の産業と私たち国民生活における役割というのを、ほかで代用できないのだろうなという感じはするのです。その辺りで、もし電気が止まってしまったら、特に送配電のところはまだ独占ですから、止まってしまったときに、一体どのような影響があるのかということで、私は電気の恩恵を受けている国民とすると、電力システム改革が起こるがゆえの先行きの不透明感というをものすごく思っているところです。その辺りをもう少し明らかにしていただけると、とても有り難いかなと感じています。

○勝部会長 先ほど内田委員からも、電気事業労使会議がこれからの自由化でどう変わっていくかという御提言もありましたが、この辺は自由化によって競争環境は大きく変化することが見込まれる中で、労使関係がどのように影響を受けるかということです。これは仁田先生、いかがでしょうか。

○仁田委員 それは分からないので、当事者がどのように考えておられるというかことを、まず伺ったほうがいいのではないでしょうか。

○内田委員 ご指摘の点は、各労使間でも話し合っていないのですが、来年の通常国会に法案が提出される予定になっており、現在はその検討作業を審議会で行っている最中で、まだ分からないというところがあります。しかし、少なくとも労使関係で言えば、送配電部門については1つになるのですが、広域系統運用機関との関係がどうなるかという話があります。また、小売部門については、自由化に伴って幾つになるかは全く分からないのです。例えば東京電力管内が1つになるのか、県単位で10個になるのか、20個になるのか、これは全く分からないという形になります。

 また、発電部門について言われていますのは、例えば東京電力の発電会社を1つにするのか、火力部門をどこかとアライアンスするのか、そういったことも今後考えるわけです。一番燃料費の安い調達方法を踏まえて発電の方法を考えるわけです。恐らく3事業区分へ移行した瞬間には発電会社は1つだろうというイメージはあるのですが、将来的には全く分からない。まして、化石資源を90何パーセント輸入している我が国でありますから、電力システム改革後の姿は全く分からないというのがあります。

 ただ、1つ言えることは、誰かが電気を供給しなくてはいけないということです。それはいくらシステムの高度化が進んでも、そこには労働者が必要だということだけは間違いないと思います。

○鈴木委員 私どもも同様に将来については全く分かりませんが、現在言えるところは、前回にエネ庁から説明もあったと思いますが、今後当然小売の全面自由化が進んでいきます。異業種からも新たにエネルギー産業に参入してくる。そのような中で、新電力の登録も、ますます数が多くなっている状況です。競争の激化が進むことは間違いないと思います。

 いずれにしても、そうなったとしても我々の使命としては、安定供給の確保をしっかりやることですし、競争が激化する中で、当然電気料金メニューは多様化したり、選択肢の幅を広げるといったことも必要かと思いますし、そういった中でお客様に選択していただく中で、我々としても生き残りを図っていくことに積極的に取り組んでいくことになろうかと思います。

 そういった環境の中で、労使関係はどうなるかということです。これは先ほどもお話がありましたとおり、現在は労使関係は非常に良好な関係になっておりますし、それをどのような環境下においても、労使関係をしっかりと良好な形で維持していくことが、経営としての役割、責任だと考えております。

○勝部会長 この点について何かございますでしょうか。

○新谷委員 今ほど河野委員が非常に示唆に富んだ御指摘をされていて、労使関係についても鈴木委員から御答弁いただいたわけです。

 私は、事務局ペーパーに付けていただいている電電公社の民営化時の例、つまりは電電公社の民営化時に特例調停ができて、それが3年後に廃止されたというプロセスについて、今回のスト規制法の検討に当たっても非常に参考になるものではないかと思います。これは河野委員も御指摘されたように、10ページにあるように、正しく業務の自動化、労使関係の安定、競争市場の形成、正しく地域独占が電力システム改革の中で変化を遂げるという転機にあるわけです。そういった意味でスト規制法のあり方を考える上では、電電公社の例が参考になるのではないかと思います。

 その際、先ほど鈴木委員と内田委員から、電力システム改革後の労使関係の在り方にかかる話もありましたが、もう一度、これまでの電力産業の労使関係を踏まえておく必要があると思います。

 非常に古い話で、時代背景などは文献で見るだけですから、違うところはあるかと思いますが、戦後復興期の中で、労働組合法、労働基準法など、労働者を保護する法律が逐次制定される中、先鋭化する労働運動があったということも事実でありますが、これは私ども労働運動に身を置くものとして、当時は意味があったと思います。例えば資料1-3の電力総連が提出した資料には、当時の電産ストを行った電産と、今の電力総連との関係が端的に書かれているわけです。

 この4ページに、当時の電産というものは一体どのようなものであったのかという機銃がありますが、これは今の日本の労使関係としてはあまり例がないのですが、当時の電産はそれぞれの個社の電力会社毎の労働組合ではなく、電産という産業別組織に、交渉権、ストライキ権、妥結権を与えていたのです。要するに、産業横断的に団体行動の全ての権限を電産に与えていて、電産が各加盟の組織にストライキ等の指示を出していたのです。ただし、昭和27年の波状的な16次にわたるストライキをやって、大規模な停電が発生し、結果として社会的にも批判を浴びた。その結果、電産は加盟組織が次々脱退し、結果、電産そのものが崩壊してしまい、なくなってしまった。

 その反省を踏まえて出来たのが、民主的な労働組合で、組合民主主義を掲げる電力総連、当時の電力労連が創設されたのです。その後、同盟に加盟され、今日の電力総連に至っている。現在の電力総連は、かつての電産ストをやったときの労使関係の母体となる電産と異なるものであり、労働運動も全く違う中で今日を迎えている。

 電事連の提出資料1-212ページにあるように、電力総連における至近の争議行為は昭和57(1982)です。こうした32年間もストライキを行っていない状態に鑑みても、また産業別や個別の各社の労使の状況を踏まえても、安定的な労使関係が形成され、今日まできていると言えます。かつ、先ほどの電力総連の提出資料にもあったように、あるいは昨日の東電の中央給電指令所を見て分かるように、電力マンの電力の安定供給にかける思いは、労使共通であり、労使関係の土台になっていると思うのです。これは、今後電力システム改革がいろいろと行われたとしても、それは通底する考えとして残っていくと思います。

 労使関係は継続的関係でありますから、明日になれば突然変わるという話ではなく、非常に長く続く相互信頼の関係なのです。そういったことから言えば、先ほど鈴木委員もおっしゃったように、電力産業における成熟した労使関係というものについて、ここは共通認識として持てるのではないかと思うのです。

 そういった意味からいくと、繰り返しになりますが、労調法の公益事業規制がある中で、なぜこの電気事業だけ屋上屋を重ねる形で規制を設けなければならないのか。昭和27年の電産スト、炭労ストがあって社会的に大きな混乱が起きたから、電気事業及び石炭鉱業については規制をかけるべきだとの世論が盛り上がってスト規制法が制定されました。ただし、当時スト規制法は3年間の時限立法だったものが、3年後に恒久法化されてしまい、今日まで存置されてきているわけです。

 事務局に再三お願いして、先ほど内田委員も申し上げたように、なぜ労調法の公益事業規制があるのに、スト規制法の中で「正当でない争議行為」を規定して屋上屋を重ねる形で禁止しているのか。正しく憲法が保障する生存的基本権を制約する合理的理由は一体何なのかということの回答が全く出てこないと思うのです。

 先ほど河野委員から、電気は他エネルギーへの代替性が低い点や、停止したら困るというのは本当にそのとおりでありますが、それは世界中同じことです。ところが、世界中を見ていただいても、電気事業だけに特別な規制を設けている国はないわけです。電気事業は公益事業全体の規制の中に置かれているわけですし、先ほども追加で事務局から資料をもらったように、国内の他法令の中でも、電気事業だけ特別な扱いをして、公益事業の中でも特別に規制しているという法の概念もないわけです。スト規制法は、正しく昭和28年にできた法律が生き残ってしまったということでありますので、そういった経緯や今日的な状況を踏まえてスト規制法の今後のあり方は判断するべきであると思います。

○勝部会長 今御発言がありましたように、憲法が保障する争議権とスト権の制約との関係というのは、非常に重要な問題かと思いますが、この辺については法律の面から中窪委員から何か御意見はありますか。

○中窪委員 私も電気の安定供給というのは大切であって、実際に震災後の停電のときは本当に大変でしたし、あってほしくないですし、かつ労使の責任ある態度によってそれが防がれているというのは、今回に至るまでずっと話を聞いて、安心し、かつ敬意を表しているところであります。

 ただ、法的に言いますと、争議行為というのはそもそも業務を停廃させ、いわば使用者に損害を与え、その圧力によって相手の譲歩を勝ち取るという、戦いのための武器という性質があります。

 しかし憲法28条の下、一定の枠内では労働者に不可欠なものとして権利を保障するということを定めているわけですから、この限界をどこにするかというのは、なかなか難しい問題です。

 事務局から頂いた資料33ページに図があり、公務員と民間について、「正当な争議行為」「正当でない争議行為」とあります。スト規制法については、民間の正当でないほうの上の所の赤い所に位置付けられております。

 確かに、炭鉱において保安に問題を生じさせるような行為というのは、争議行為として許される範囲を超えており、正当でないのは明らかだと思うのですが、電気事業において、労働者が普通のストライキをして、その結果として電力の供給が阻害されてしまうというのが常にここに入るかというのは、議論の余地があるような気もするのです。

 ですから、むしろ組合の皆さんにお聞きしたいのですが、組合としてもスト規制法の対象はここにあると理解されているのか、あるいは正当か正当でないかの境界線の辺りについて、法律で明確化するために線を引いたと理解されているのか、それとももう明らかに正当な争議行為にまではみ出して憲法28条に反するところまでいっているのか。

 実際には、これは我々がいくら言っても、具体的な事件になって最高裁にいかないと最終的な判断がなされないわけで、かつ実際にストライキをされることがないとすれば、そういう判断というはなかなか出ないと思うのですが、組合としてはどのような認識でおられるのかという点を教えていただければと思います。

○新谷委員 資料33ページの記述に関して私どもの立場から言えば、公務員の労働基本権が制約されていること自体、異論を唱えているわけです。もちろん、資料33ページは現状の解説でありますのでこのとおりではありますが、もともとの公務員の基本権の制約自体は、私どもとしては異論があるということは、まず申し上げておきたいと思います。

 その上で、中窪委員がおっしゃるように、スト規制法の規制下において、電気事業で働く労働者の争議行為の正当性にかかる司法判断がされていない中で、労働組合として正当性の判断の線引きをどう思うのかというのは非常に難しいのですが、私どもは申し上げたように、憲法28条で保障されている労働基本権が、スト規制法という特別法によって「電気の正常な供給を停止する行為その他電気の正常な供給に直接に障害を生ぜしめる行為をしてはならない」と正当性が否定されているわけで、この正当性が否定される理由は一体何なのかということが理解できないのです。生存権的基本権である権利が、なぜこういった特別法で、電気事業に限って制約される理由が、私どもとしては全く理解できないのです。労使関係などが進展を見せた今日においては、スト規制法は意味がないのではないかということは、重ねて申し上げておきたいと思います。

○内田委員 大まかな憲法と労働者の関係は、新谷委員が言われたとおりでして、電力労働者のスト規制とこの法の関係で少しお話をさせていただきます。

 資料35ページに「スト規制法において禁止している正当でない争議行為」にかかる記述がありますが、これは事務局から出していただいたとおり、厚生労働省の通達ではこうなっているわけです。

 厚生労働省の通達では「禁止対象となる争議行為の例」が示されています。その中で、積極的行為はスイッチ・オフ等ということで、これは兼ねてから私が言っておりますように、昭和27年より前はこういった行為はありましたが、昭和28年にスト規制法が制定された原因となった電産ストにおける大規模停電に関しては、労働者がスイッチ・オフを直接行ったのではなく、発電所の労務不提供が主な原因という話をさせていただきました。ただ、積極的行為については、スト規制調査会の中で、我々の先人が「スイッチ・オフは行わない」ということを発言していることを承知しております。

 問題は消極的行為なのです。ここで掲げられている消極的行為が先ほど厚生労働省からありましたように、法に抵触するとして明文化しなければいけない争議行為なのかどうかというのは、疑問があると思うのです。3ページにあるように、先ほど指摘いただいた、正当な争議行為の部分が正当でない争議行為のほうにずれているのではないかと思います。

 昨日も見ていただきましたが、品川の火力発電所では、従業員が100人、点検等をするメーカーの方が200人程度いると言っておられたわけですが、メーカーの200人の方がいなければ、あの発電所は維持できないわけです。中央給電制御所で見ていただきましたように、実際に制御しているのは5人の方です。ほとんどコンピュータ制御なのです。実際にはいくら人を確保しても、通信網などが遮断されたら、全て制御が利かない形になるわけです。

 ですから、このスト規制法が制定された60年前の時代背景と現状を比較して、今の時代背景に合った法整備が必要ではないかと思います。

○仁田委員 スト規制法というのは、公務員などですと、もともとの趣旨はともかくとして、最高裁の判例などを見ると、一種の独占的な使用者なので、つまり労使関係の正常なチェック&バランスが働かないというような、大体そのような考え方に基づいて、アメリカ風の理論だといいますが、公務員のストライキを禁止することは正当化されるのだという理屈立てになっていると思うのです。

 それに対して、スト規制法はそういう話ではなくて、物理的な話なのですが、ストライキをやったときに、正に電力供給というものが停止されてしまうかどうかということがテーマで、それを起こさせないというのが法律の課題だということになっている。そういう点ではやや特殊なというか、確かにほかの法とは違う考え方に基づく法律かなと思うのです。

 そうすると、今日の状況の下で、御説明がありましたが、1つの要点は実際に電気の正常な供給が停止するのかどうか、どういう人がどのようなストライキをすると、どのような供給停止が起こるのかということについて、確率的な事象ですから、非常に起きやすくなるとか、そういうようなことが言えるのかどうかということは、この議論の中で確認しておく必要があるのではないかと思うのです。

 ただ、一方で鍵になる人の人数は非常に少なくなっている。ただ、その人たちがストライキしたときに代替できるのか、あるいはその人たちがどのぐらいストライキをすると問題が起こるのかとか、そのようにやや技術論的になって、こういうところで議論するのに向くかどうか分からないのですが、そういうことを検討する必要はあるのではないかと思います。前提となる事柄ですから。

 もう1つは、これからの話なのですが、法的分離というのが起こるとなったときに、今のオペレーションそのものがどのように変わるのかということで、それを安定的にシステムが維持されていくのかとか、そういうようなことについて、つまり電気の正常な供給が停止するような事態というのがその中で起きやすくなるのか、そういうのが起きにくくなるのかというような問題があるかなと思うのです。

 更に言うと、先ほどの電力システム改革の中で、たくさんのプレイヤーが登場してくるとなったときに、それは一面では、ある意味で紛争が発生しやすくなる条件になるかなという気はするのですが、先ほどNTTの話がありましたが、他面では代替供給者が増えるということになりますので、そうすると一部の発電所でストライキが起きても、致命的な問題にはならないという状況の変化が起こるのかもしれないとも思われるわけです。

 だから法律論も最終的には重要なのですが、この法律の性質上、これをどうこうするというのを考えるのであれば、そういうことをある程度実務的にというか、検討する必要があるのではないかと思うのです。いかがでしょうか。

○勝部会長 今の点についてはどうでしょうか。諸外国、特にアメリカなどは電力の自由化がかなり進んだということで、ハワイではストライキが実施され、停電も発生したということなのですが、これはかなり大きな範囲でなされて、かなり大きな影響が出たのか。フランスでもEDFが民営化する際にストライキをしたということもありますので、自由化の中でそういったことが起きやすくなっているのか、あるいはそれが一部に限定されているのか、かなり大きなものだったのか、この辺について何か資料というのはありますでしょうか。

○労政担当参事官室政策企画官 御指摘の、フランスやアメリカで停電が発生したということですが、フランスの場合は民営化に反対したということでのストということで、これは一部の地域に限定して送電カットを行ったと承知しています。アメリカのハワイの方ですが、これも賃上げ等をめぐってストライキが起こったわけですが、この際、幹部が非組合員を動員して業務に当たったけれども、暴風雨等があって、それで停電が起きて、その際に復旧する要員がいなかったということで少し回復が遅れたと、状況としてはそのように承知をしています。

○勝部会長 ほかに何かありますか。

○新谷委員 スト規制法を廃止すると即座にストライキがおこり電気が止まるのかという論議にいっているわけですが、これは先ほど説明がありましたように、労調法による公益事業規制が電気事業にはかかっているわけです。具体的には職権調停が可能なシステムになっていますし、10日前の争議行為の予告に関する規制、更には内閣総理大臣による緊急調整ができるわけであり、実際に炭労ストでは内閣総理大臣による緊急調整が発動された実績もあるわけです。ですから、労使関係の問題が生じた際に、すぐにストライキに入ってしまうということはあり得ないわけでして、ここは労調法の公益事業規制があるという前提で論議をすべきではないかと思います。

○河野委員 本当によく労働法を存じ上げない国民の素朴な疑問だと思ってください。権利を回復したらどうなるかを考えて、回復したら権利は使えるようになると。その権利が、今、制限されているものは何かと言うと、先ほどから皆さんが使っていらっしゃる資料37ページ、「スト規制法と労調法の緊急調整の関係」の図ですが、これを拝見すると、スト規制法はあくまでも未然防止だと書かれています。理解ができていないという大前提で考えていただければと思うのですが、電気に関して言うと、基本的には、災害時とか緊急事態が起きたときに停電することは、国民としても受け入れざるを得ない。けれども労使関係の争議が原因でここで停電が起こるのは、どう考えても国民感情としても受け入れ難いと思うと、この図は私たち国民から見ると、電気はこれが担保されているので、通常時は停電が起きないのだなと読めてくるわけです。

 私が先ほど申し上げたのは、事業構造が変わっていく、送配電の所は相変わらず独占であって代替不能であること。先ほどから皆さんがおっしゃっている、労使関係とか電気事業に関わっている方の非常に高いプライドといいますか、事業に対してしっかりと真摯に向き合っていこうというところは何ら疑っていませんが、権利が回復したら、今ここに図示されていることが本当に担保されるのかどうかは、不安で仕方がない。今はこれがあるから、基本的に災害時・緊急時以外は停電が起こらない。しかし、そうではなくなって、今後に向けて、今皆さんがおっしゃっていることを国民として本当に100%信じていいのかと。本当に申し訳ありません、非常に素朴なところなので、その辺りを、どのような納得のいく御説明が頂けるのかは心配です。

 今、蓄電池の研究とかをされていますが、やはり電気はためられないし、昨日の中央給電指令所を拝見していると、常に需給のバランスの調整を行って周波数が乱れないように努力されている。かなり技術も進歩していますし、コンピュータ制御でコントロールされているとはいえ、やはり人が関わる。もし非常に重要な所が動かなくなったときを考えると、非常に不安に思っていることだけお伝えしたいと思います。今後に向けてどうなるのか見えてこないことが不安なところです。

○内田委員 失礼な言い方ですが、そういう議論になると、電力労働者が果たして民間労働者でいいのかどうか、電気事業は市場である民間に任せていいのかどうかということへ行くと思うのです。少なくとも我が国は、電気事業の公益性は強いけれども、市場原理を入れたほうがコストについても供給力についても良いのではないかという観点から、諸外国に先駆けて民間事業者での供給体制を敷いております。これは私は素晴らしい電気事業体制だと思うのですが、今回その供給体制にメスを入れるという話ですから、こうした議論を行っているのです。

 あたかもスト権が回復したら、明日からでも我々がストを起こすと思われているようであるが、例示が適切かどうか分かりませんが、政府は集団的自衛権の行使を容認するという閣議決定を行ったわけですが、これは別に専守防衛をやめただとか、戦争をするなどという話をしているわけではなくて、抑止力の強化と言っているわけです。

 スト規制法に関しても正しく同じで、労使の関係にこれから市場原理が入ってくる中で、労働者についても使用者に対する抑止力を強化して、対等の立場に立つと思うのは至極当然です。そこで組合員や社会に理解されないようなストライキを行うと何が起こるかという点については、電産スト後に崩壊に至った電産が示しているわけです。組合員や社会に理解の得られないストライキは、組織の崩壊を招くわけで、我々はそれを歴史から学んでいるわけです。

 また、電力が企業経営に与える影響の話が出ていますが、果たして電力だけが今の経済社会を維持する上で絶対必要だということなのか。例えば、スーパーにしても、コンビニの方についても、全て貴重なサービス供給源です。そこで争議行為が起こらないように、使用者は最大限の努力をされるわけです。電力の使用者だけが争議の回避努力をしなくて、社会の中でその役割を果たそうというのは、違うと思うのです。すべての労働者、そして使用者は法の下に平等なわけですから、電力の使用者も同じ役割を担う。だから、労使が対等な立場に立って争議が起こらないように努力をするということが社会の一理であると思います。あくまでも抑止力だということで理解をしていただければと思います。

○中窪委員 確かに電力だけが特別に供給の継続を義務付けられているのはなぜだろうというのが、組合として一番気になるところでしょう。それについては、偶然ではないですが、歴史的にああいうストをきっかけにできたということで、私もそれ以上には説明できない気がするのです。

 おっしゃるように、例えば病院が止まったとか、交通機関もガスもそうでしょうが、それぞれストライキが起きる可能性は常にあるのですが、それを前提に社会が動いている。その中で、電気についてだけ、民間がやっている所なのに、なぜかと。結局、ここにどう答えるかが我々の課題になると思うのです。

 資料22ページに韓国の「必須維持業務」というリストがあります。韓国はまた非常に厳しい所ですが、それにしても鉄道から始まって、航空、水道、電気、ガス、石油供給、病院、銀行、通信など、たくさん並んでいます。常にこれだけは維持しないといけないという韓国なりの判断があったのだと思うのですが、下手をすると、では日本でもこういうのが必要ではないかという議論になりかねません。私はそれは間違っていると思うのですが、そういうことを言うのなら、おっしゃるように逆に公務員にすべきではないかとかいった議論も出てくると思います。電気については安定供給の必要性が確かにある。しかし、それが全体の労働組合法あるいは憲法の法制の下でちゃんと調和したものとなっているのか、あるいは、どのようにすべきかをここで議論するのだということでしょう。私はそれ以上にないのですが、そういうことが確認できたと思います。

○新谷委員 内田委員と中窪委員がおっしゃったとおりだと思います。河野委員がおっしゃるように、電気が止まったら困るのは本当にそのとおりですが、それは電気に限らず、例えば電気通信や病院も同様ですし、みんなあって当たり前の業務が止まることに対する国民生活への影響は、当然出てくるわけです。

 先ほど中窪委員からあったように、憲法第28条が保障する労働基本権の中の争議権は、使用者の正常な業務の運営を阻害して、それで労働者の権利の実現を図るというものです。11では対等ではない労働者が労働組合を結成し、集団的な関係の中で労働者の権利の実現を図るというもので、そのための法律上の規定が憲法第28条であり、労働組合法なのであって、正当な争議行為については、刑事免責も民事免責も与えられるという構造になっているわけです。そのときの公共の福祉とのバランスで労働者の権利をどのように考えるかという視点でできたのが、労調法の公益事業規制であると私どもは理解しているのです。

 繰り返しになりますが、では電気事業だけがスト規制法という形で屋上屋を架す規制を設けるのかということの答えがない。中窪委員がおっしゃったように、昭和27年のストライキによって高まった国民感情をもとに昭和28年に国会でスト規制法ができて、電気事業と石炭鉱業についてのみ正当でない争議行為にかかる規制をしたまま3年が経過し、恒久法化してしまって今日まで来ているのです。

 だから、いくら60年前の立法過程における資料を探しても、それ以上の答えは出てこないわけです。正しく世論を背景とする立法府の意思によってこういった特別法が作られてしまい、それが今日まで存置されてしまっているのであって、今となっては合理的に説明しようがないと思うのです。だから、電気事業及び石炭鉱業に関しては、スト規制法を撤廃して労調法の公益事業規制の中で対処すべきであり、そもそも職場の課題は対等な集団的労使関係の中で解決をはかるべきだと私は思います。

○鈴木委員 公益事業の中でなぜ電気だけが特別になっているかという話の中で、確かにおっしゃるとおり歴史的な経緯といった理由であることは間違いないと思います。ただ、あえて今日的に電力がほかと違うところは何かということになろうかと思いますが、これは昨日の現場視察でも見ていただいたとおりですし、また、前回の部会でも電事連から説明いたしましたが、電気はためることができないので、そういった意味での需給のバランスを一定に保っていく。それが保たれなければ、電気は止まってしまう。そういったところは、ほかの公益事業と違う特殊性の部分ではないかと思っています。

○新谷委員 鈴木委員はそうおっしゃるのですが、私がこの前お願いして作っていただいた資料38ページの「他法令の『公益事業』における電気事業の取扱い」、あるいは諸外国の例を見ても、電気事業にのみ特別に公益性を見出して規制をかけている事例は、世界に類例がないわけです。スト規制法の立法過程が、昭和27年の電産スト、炭労ストを背景とする国民感情をもとに昭和28年に立法府が規制をしてしまったという経緯でしかないわけです。その後、電気事業だけが特別の公益事業として何か指定しているのかというと、そういう立法例もないわけでして、なぜ電気事業だけが特別の規制をしなければならないのかを合理的に説明していただきたいのです。他の法令にもないものが、なぜ残されるかを是非説明していただきたいと思います。

○勝部会長 ほかに何か御意見はありますか。

○井上委員 私どもは大変電力を使わせていただいている需要会社ですが、今、正にエネルギー、電力のシステム改革が進む中で、この先のことを考えると変化点が大変大きいと認識しています。ですので、河野委員がおっしゃられた、この先をよく見たい、不安だというのも、よく分かることだと思っています。電力は他の公共事業と比べて、私どもの事業経営への影響が非常に大きいと認識しています。ですので、そういうことは事実としてあるのかと思います。

 また、先ほど予告うんぬんというお話があったのですが、先般の震災の計画停電のとき、停電がありますということの予告に相当することがありました。私どもはそれに向けて大変な準備をして、たとえば稼働を変えるということまでするわけです。そういうことを考えると、予告をするのだから、影響はないのではないかと言われると、それは非常に大きな影響があるということかと思います。

○新谷委員 先ほど来申し上げているように、労調法による公益事業規制は、10日前の争議行為の予告だけではないのです。内閣総理大臣による緊急調整ができるわけです。これによって50日間ストライキが禁止されるわけでして、労調法による公益事業規制があることを理解していただく必要があります。争議行為の予告だけだから、予告後はすぐストライキに入るということではないのです。だから、内閣総理大臣による緊急調整は、炭労ストで実際に発動された例があるわけであり、それは中央労働委員会の中で適切な判断をされる仕組みだと思います。議論の前提として、今のシステムをよく御理解いただかないといけないと思います。

 確かに東日本大震災の際に、電力の供給制限で停電が発生してしまったことは、本当に重大な影響がありましたが、経営としても停電リスクに備えて勤務シフトを変更する他にも、例えば自家発電機を持ち込むなど様々な対策を講じているわけです。

 先ほど申し上げたように、ストライキは事業の正常な運営を阻害しますが、それがなぜ法律上認められているのかを考えるべきです。その上で、社会に大きく影響を与える公益事業については、公共の福祉との関係で労調法による公益事業規制が設けられている。そういった背景も正しく理解していいただくべきです。電気が止まったら大変だ、争議行為の予告だけでは駄目だ、ということではないことも踏まえて御検討いただきたいと思います。

○勝部会長 ほかにはよろしいでしょうか。

○仁田委員 1つだけ質問します。資料3の議論の俎上に上っているわけですが、それの5ページに「禁止対象外の争議行為の例」があるのですが、※の2つ目の長い文章ですが、「電気の正常な供給に障害を生じることがないように労使間で十全の協定がなされ、それに従って現実に措置がとられる場合は対象外」という考え方です。普通、争議をする場合には、争議協定を結ぶものであると思うのですが、この条項は電力の労使関係では実際上どう運用されておられるのですか。

○蜷川委員 労働協約上の争議の不参加者については、その職種及び人員について労働組合と会社とで協議するといった形で、それぞれの中で不参加者を事前に確認することが一般的です。具体的には、電気の供給に影響のない範囲ということで、保安要員、発電所の運転員、指令当直員というような方々を、不参加者としているのが実情です。

○仁田委員 ですから、これは一種のエスケープクローズみたいになっていて、つまり、これを協定でエッセンシャルなところ、上の消極的行為の対象に挙がっているような職種の人たちで、この保全、労使間の協定をすることによって対象外となってストライキできるような立場になっているということは、実際上生じているのでしょうか。

○内田委員 全ての単組を確認していないので一般論で申し上げると、先ほどの資料の「積極的行為」「消極的行為」、その下に発電所等があるのですが、この日本語を解釈するのは非常に難しいのです。当時、スト規制法が制定され、労働省からの通達が出たとき、労使でどこまでがスト規制の対象なのかの協議会を持った所もあるのですが、それを解釈して、ストライキの対象を決めて、実際にやるかやらないかは、先ほど言いましたように抑止力が目的ですから、例えばAさんはスト参加可、Bさんはスト参加不可と決めても、意味がないではないかということが大勢でした。そのため、保安要員、保守要員、運転要員などの「職種」や「課」、「係」によって対象を決めるというのが一般的です。

○新谷委員 私も民間の組合の出身ですし、労働協約の締結、あるいは争議行為、交渉の当事者でもありましたので、実情がどういうことになっているのかということを説明すると、確かにストライキは、会社側に対して損害、被害を与えることが目的ですが、会社を潰してしまうとか、事業そのものをなくしてしまえなどということは、労働組合としても当然思っているわけではありません。必要最低限稼働させなければいけない分野とか、労働者の命に関わる分野は、当然、争議不参加者協定を締結し、そうした部分は必ず稼働させていくこともやっているわけです。先ほど河野委員もおっしゃったように、例えば電力会社が電力供給を止めてしまったときに浴びる社会的批判についてもどうするのかという点についても労使で十分考えるところでです。この点は労使関係を信頼していただくしかないと思いますが、これは成熟した労使関係の中で対処されるものと思います。

○勝部会長 よろしいですか。そろそろ時間になりましたので、今回、第3回目ということで、労使関係、諸外国の法制との比較、争議権との関係等について議論を行ったということです。次回ですが、日程について事務局から説明をお願いします。

○労政担当参事官室政策企画官 次回の部会の日程・場所については、現在、調整中ですので、追って御連絡させていただければと思います。

○勝部会長 議事録の署名ですが、労働者代表の蜷川委員、使用者代表の鈴木委員にお願いします。第3回部会は、これにて終了します。本日はお忙しい中、大変ありがとうございました。


(了)
<照会先>

政策統括官付労政担当参事官室
法規第1係 内線(7742)
代表: 03-5253-1111

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