2013年11月15日 第4回「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会議事概要

労働基準局労働条件政策課

日時

平成25年11月15日(金)15:00~16:20

場所

厚生労働省 専用第23会議室(6階)

出席者

今野座長 神林委員 黒田委員 櫻庭委員 佐藤委員
竹内(奥野)委員 野田委員 水町委員

議題

(1)多様な正社員に関する企業からのヒアリングについて
(2)その他

議事

議事内容
1.G社(飲食業)


(雇用区分)


・ 正社員の区分は、全国職、広域地域職、地域職。


・ 全国職は勤務地限定がなく転居を伴う異動がある。広域地域職は、一定地域内での転居を伴う異動があり、地域職は転居を伴わない異動がある。


・ 他に1年契約の契約社員については、勤務地(店舗や工場等)が限定されている。


 


(賃金水準と処遇等)


・ 全国職の賃金水準(基本給)を100とすると、広域地域職は90、地域職は85、契約社員は80。


・ 全国職以外は、全国の地域を5区域に分け、地域水準を踏まえて設定した地域手当を上限2万円まで支給。


・ 各雇用区分の昇進スピードに差はない。


 


(転換制度)


・ 広域異動の区分から狭域異動の区分への転換制度あり(例えば、全国職から広域地域職への転換)。本人の申出、人事面接で判断。


・ 狭域異動の区分から広域異動の区分への転換制度あり(例えば、広域地域職から全国職への転換)。本人の申出、一定の資格要件、職務内容、人事評価などを踏まえて判断。


・ 契約社員から正社員への転換制度あり。上司の申請、人事面接などを踏まえて判断。


・ 病気や介護等の事由により、狭域異動の区分に転換し、当該事由が解消されたことにより、再度広域異動の区分に再転換することも可能。


 


(労使コミュニケーション)


・ 労働組合と年2回以上協議の場あり。


・ 人事関連諸規定を改訂する際は、検討会を随時開催。


 


(事業所閉鎖の場合の人事上の取扱い)


・ 就業規則に事業所閉鎖時の人事上の取扱いは定めていない。


・ 店舗閉鎖等の場合、近隣の店舗への配置転換により対応。異動に合意しなければ、雇用は終了。


 


(多様な正社員制度導入の目的・背景)


・ 地域に密着した運営が、顧客の支持を呼び、売上げ向上につながるとの分析により、地域に根ざした店づくりを目指す。


・ 社員の多様なニーズへの対応。


・ 地域の優秀な人材の積極的な登用。 今後人口減少に伴い、労働力確保が急務となる。特に女性は、高齢者や子供への接客対応が丁寧なため、積極的な登用を図る。女性の採用し易さの観点から異動の範囲を限定。


 


(メリット)


・ 企業にとっては、地域に根ざした優秀な社員の採用、定着率の向上、地域に根付いた営業による売上げ向上。


・ 労働者にとっては、転居が困難な社員の安定的な生活基盤の形成 。


 


(課題)


・ 最近、若年層で狭域異動の雇用区分への希望者が増加。地域によっては、各雇用区分の定員を設けて人事配置を管理。


・ 勤務地限定の社員が増加することにより、人事配置に閉塞感が出てくる。


・ 地域に根ざした店舗運営に当たり、契約社員の能力が高く評価されており、異動の有無のみによる処遇格差の改善が求められている。


 


(今後の方針)


・ 契約社員全員を無期契約の社員とする制度を導入予定。賃金水準は1割程度上昇させ、確定拠出年金にも加入。


 


【質疑応答】


○ 事業所閉鎖の場合、店舗限定の契約社員に対し転居を伴う地域の事業所への配置転換を打診するのか。


→ 打診した上で、本人の同意があれば、雇用区分を広域異動の区分に変更して対応する。


 


○ 契約社員を全員無期契約社員にすると、人件費増となるがその決定はどのように行われたのか。


→ 社員へヒアリング及び意識調査を行った結果、処遇改善への要望が一番多かったことを踏まえ、経営トップが決断したもの。2016年までに人事制度を改善する一環として、処遇を改善しない限り社員の満足度が高まらないとの認識を、経営側と共有。


 


○ 地域によっては、各雇用区分の定員を設けているとのことだが、転換希望者がそれを上回る場合、どのように対応するのか。


→ キャンセル待ちのような状況になっている。


 


○ 全国職と広域地域職の比率は約40:1だが、全国職はそこまで必要なのか。


→ 実態では全国職の約50%が、広域地域職の勤務地域内での異動にとどまっている。全国職の規模については、今後の検討課題。


 


○ 雇用区分によって、配置される事業所は異なるのか。


→ 現時点では区分けがない。ただし、事業所を売上げ規模別に格付けしており、高い売上げをあげている事業所には全国職を配置する準備をしている。


 


○ 非正規雇用労働者から正社員へ、会社側から転換を打診するよう働きかけはないのか。


→ 優秀な社員であれば打診する。実際に会社側の打診により、契約社員から地域職、広域地域職、最後は全国職に転換した女性がいる。


 


○ 女性社員を確保するため、時間限定正社員の導入は検討していないのか。


→ 勤務時間帯での切り分けができないか社内で議論しているが難しい。夜間は人の確保が難しく、正社員が対応せざるを得ない現状があり、時間限定正社員を導入するとシフトが組めない可能性がある。時短制度を活用する社員には、忙しい時間帯の勤務をお願いしている。


 


○ 契約社員が組合員であるとすれば、無期契約とすることに対する組合の反応は如何か。


→ 組合とは検討段階から協議し、労働力確保が急務ということから理解を得ていた。


 


○ 現在の賃金水準はどのようなプロセスで決定したのか。


→ 当時の決定プロセスは不明。契約社員を無期契約社員とすることに伴い、正社員を4区分とすることが適当か否かで、現在の賃金水準についても組合と協議している。


 


○ 雇用区分を4区分とする理由は何か。広域地域職と地域職を統合することは考えないのか。


→ 広域地域職区分を設けている経緯は、当社は複数のブランド名で事業所を運営しており、ブランドごとに「関東圏に多く出店している」、「関西圏にしか出店していない」など店舗の出店に地域的特色があった結果によるもの。


 


○ ファミレスや寿司屋などに職務限定社員はいないのか。


→ 調理等はある程度しか機械化されていないので技術を要する。職務限定はないが、ブランドを超えての異動は希望がほとんどないため、勤務する店舗ブランドは固定化している。


 


○ パートから契約社員になる者は多いか。


→ 多い。


当社のようにテーブルへの配膳を行う形態では、覚える作業も多く経験者の定着が求められている。多様な働き方を用意しなければ、人材の確保が難しい。


 


2.H社(小売業 スーパーマーケット)


(雇用区分)


・ 無期契約で勤務地を限定せず転勤がある正社員のほか、フルタイムで店舗固定勤務の準社員の2区分。他にパート・アルバイト。


・ 準社員は、店舗の販売職と工場の技能職のみ。


労働契約書で勤務する店舗・工場を明示するが、就業規則には勤務地限定の規定はない。


 


(賃金水準と処遇等)


・ 正社員と準社員の賃金テーブルは同じ 。賞与については、年間1ヶ月分の差がある。


・ 年収ベースで準社員は正社員の約90%。この差は賞与による。


 


(転換制度)


・ 非正規雇用のパート労働者から正社員への転換制度あり。現在、準社員への転換の応募はなく、正社員への転換が毎年10~15名程度の実績である。


募集は年2回実施し、上司の推薦、面接試験、一定の勤続年数などが要件となっている。


転換後は、転居を伴う異動を行う。


・ 準社員から正社員への転換制度はあるが、実績はない。上司の推薦、面接試験などが要件となっている。


・ 正社員から準社員への転換制度はないが、本人の申出等があれば運営で対応。


 


(労使コミュニケーション)


・ 労働組合はない。


・ 新人事制度の導入などについては社員代表に説明し協議。


 


(事業所閉鎖の場合の人事上の取扱い)


・ 就業規則に事業所閉鎖時の人事上の取扱いは定めていない。


・ 事業所閉鎖等の場合、他の勤務地や職務への配置転換を行うことになるが、準社員の勤務する店舗では前例がないため実績なし。


 


(多様な正社員制度導入の目的・背景)


・ 店舗・工場のパート・アルバイト社員の中から、能力の高いスタッフの処遇を引き上げ、人材の定着率、モチベーションの向上を図る。


 


(メリット)


・ 企業にとっては、人材の定着率の向上、責任ある権限を任せられる社員の体制の確保。


・ 労働者にとっては、収入の増加と雇用の安定。


 


(課題)


・ 勤務場所が店舗・事業所固定の準社員が増加していくと、正社員の絶対数が少ない店舗での人事硬直化が生じる。


 


(今後の方針)


・ 来年4月から、関東、関西、中部のエリアを指定し、転居を伴う異動のない区分(地域職)を新たに導入する予定。正社員との相互転換は年1回可能。


賃金水準は、正社員100に対し95で設定(準社員より5/100アップ)。正社員と基本給は同じで、賞与により差を設ける。


 


【質疑応答】


○ 準社員導入のメリットに関して、パートから転換した準社員の賃金水準はどれくらい引き上げられるのか。また、定着率の向上した実績はどうか。


→ 一律ではないが、準社員への転換により年収が100万円程度アップする。また、パートから転換した準社員は現時点で退職者がいない。


 


○ 労働組合がない中で、社員代表と制度導入等の説明をされているが、その社員代表とはどういう立場の労働者か。また、社員代表の他に、全社員に対しては説明しないのか。


→ 社員が加入している共済会の代表者に説明し、協議を行っている。


 


○ 小売業界では勤務地限定などの多様な正社員の導入が進んでいるが、なぜ地域職の導入が遅れたのか。


→ これまでは、直営店は関東中心の店舗展開であったため、転居なしの異動により人事配置が可能であった。


しかし、フランチャイズ方式を採ってきた関西、中部エリアでも、近年直営店の出店が多くなり、正社員を転勤させる必要が生じたが、転勤拒否や退職した例があり、人事配置に支障を生じてきている。こうした事情から、エリア内で異動を行う地域職のニーズが出てきたもの。


 


〇 これまでは、本部において正社員が勤務し、店舗の運営を管理する関わりが強かったので、店舗には正社員は殆どいなくても良かったということはないか。


→ パート等にも必要な教育訓練を行って店舗を運営してきている。


 


○ 地域職を導入したとき、現在の準社員や正社員の振り分けはどうするのか。


→ 毎年1月に本人からの希望を聴いて、4月以降に転居を伴う異動は行わない地域職か、又は正社員のいずれかを選択してもらう予定。


 


○ 地域職の勤務する店舗が閉鎖したとき、どのような対応を考えているのか。


→ エリア内の他店舗への配転により対応することを考えている。


 


〇 現在、パート等から正社員への転換を希望する者の合格率はどれくらいか。


→ 希望者の約8~9割であるが、上司の推薦を得る時点で絞られているのが実情。


 


〇 賃金水準について、正社員100、地域職95、準社員90となり、パートが準正社員に転換すると100万円アップするということは、パートの年収は200万~300万円くらいか。その場合、賃金差が大きすぎると思われ、転換が進まないのではないか、改善の余地はあるのか。


→ パートの年収は200万円程度。


パートと準社員の中間的な職位として、パートリーダーに登用し、一定の責任と権限を与え準社員に次ぐ処遇をしている。現在60名くらいパートリーダーに登用。


しかし、そもそもパートから正社員に転換することについては、シフトや職務内容も変わり、責任も大きくなることから、転換を望まない者が多い。


 


〇 小規模店舗で正社員は何人か。地域職が増えると、店長も今後地域職を登用することになるのか。


→ 最小規模店舗では、正社員1名、ほかはパート・アルバイトが十数名。


正社員は、小規模店で2~3名、大規模店で10数名配置している。


今後は、地域職の店長登用も考えている。


 


○ 地域職を導入することで、総人件費は増えるのか、減るのか。


→ 余り変化はないと考えている。


 


〇 毎年地域職か、正社員かを本人の希望で選択できる制度設計であれば、年度毎に地域職や正社員の人員構成にバラツキが出ると考えられるが、転換後の定員を制限するのか。


→ 現状では、半数が地域職を選択しても問題はない。


 


〇 正社員への転換者は毎年10~15名いるが、それまでパートだった人が全国転勤しているのか。


→ 離婚してフルタイムで働きたいとか、定職を持ちたいといったような事情の者が正社員に転換しており、対象者は主婦のような者だけではない。


 


〇 正社員は何名採用するのか。その新卒採用と転換者との比較で業績はどうか。


→ 毎年70名新規採用しているが、戦力になるまでには3~5年はかかる。即戦力という点では転換者の方がよい。


 


〇 これまでより正社員の異動範囲が広くなったとき、賃金水準として 正社員100、地域職95、準社員90の差で正社員を処遇できるのか。


→ 現時点では処遇できているが、今後の検討課題である。


 


〇 なぜ、準社員は人数が少なく人気が無いのか。準社員になるよう声掛けをしたらどうか。


→ パートから準社員に転換してまで、責任を持ちたくないという意識が強い。


本人に声をかけるが、業務管理や教育面の職務も増えるので、断られることが多い。