IDESコラム vol. 19「多様性の国のワシントンDCより」
感染症エクスプレス@厚労省 2018年5月18日
IDES養成プログラム 2期生:船木 孝則
IDES2期の船木孝則と申します。私は現在、米国の首都ワシントンD.C. (以下DC)にあります、U.S. Department of Health and Human Services(HHS, 米国保健福祉省)のOffice of the Assistant Secretary for Preparedness and Response(ASPR, 事前準備・対応担当次官補局)という部署に派遣されております。
DCは皆さまもご存知かと思いますが、全米で唯一の特別行政区であり、米国の首都です。経済や文化の中心であるニューヨークとは異なり、DCは連邦政府の直轄として独立し、米国の政治の中心として機能しています。DCの広さは約177平方キロメートルと、琵琶湖の4分の1ほどの大きさ。693,972人(2017年推計)が居住しています。建築物の高さ制限が厳しいため、高層ビルは一つもなく、観光名所でもあるワシントン記念塔が最も高い建物となっています。そのため空は広く、公園が豊富で緑豊かな街並みが広がっています。芝生で寝転ぶと、空しか見えないのです。DCは、週末は観光で、平日は政治で賑わっています。私はそのようなDCのナショナルモール近辺の連邦政府機関が集まる地域で、勤務し生活をしています。私は、DCの自然豊かなナショナルモールやその近くに多数点在するスミソニアン博物館群が大好きです。
現在、とてものどかなDCですが、2017~2018年シーズンは、DCを含めた東海岸は何度か大規模な寒波に襲われ、また米国南東部やプエルトリコ等を中心に複数のハリケーンにより大きな爪痕を残しました。こうした災害において、特に保健・医療分野における中心的役割を担っているのが、私が所属しているHHSのASPRです。HHSは、国家対応枠組(NRF, National Response Framework)で示された15の危機支援機能(ESF, Emergency Support Function)のうち、「#8公衆衛生・医療サービス」の中心機関とされています。このHHSの中にあるASPRが、災害や感染症アウトブレイクを含めたオールハザードへの対応で、緊急オペレーション機能の中枢を担うわけです。私は、この組織で、厚生労働省からのリエゾンとしての役割を担っています。
日本との組織の違い、仕組みの違いもあり、一つの案件を進めていくのも時間が非常にかかると言う点で苦労しますが、将来的に国(民)のために、そして世界の人々の健康を改善させることにやりがいを感じ、日頃の何気無い小さな仕事に一生懸命取り組むことの重要さをひしひしと感じています。
今シーズンは米国でも季節性インフルエンザの流行は、A(H3N2)を中心に猛威をふるい、2009~2010年のパンデミックシーズン以来の罹患水準となりました。
パンデミックといえば、2018年は「スペインかぜ」が猛威をふるった1918年からちょうど100年目の節目の年となります。米国では、パンデミック・オールハザード事前準備法の再々授権の年でもあり、関心が高まっています。
私の所属するASPRは、この法律の理念に基づき、「原因の如何を問わず、国家の公衆衛生及び医療の緊急事態への事前準備・対応を改善する」ことを目的として、2006年に組織再編されて設立したHHSの部署です。ありとあらゆるハザードへの事前準備・対応をするべく、法律改正や政策立案、医薬品・医療機器の研究開発、緊急オペレーション、国際的な協力など多岐にわたる業務を日々行っています。私自身は日米間での案件の連絡・調整を行うリエゾン業務に加え、米国内でネットワークを構築しながら感染症・危機管理関連の情報収集を中心に活動しています。
米国には、上記のような様々な災害の経験と教訓、国土が広く、予算が潤沢で、多様で優秀な人材が多くいる印象があります。保健医療体制は、日本と異なるので、一概に比較は出来ませんが、過去の教訓を生かし、体系的に改善策を講じていく取組等について学ぶ点も非常に多いと感じています。特に感染症の危機管理を含めた、人の健康危機関連の状況把握を24時間365日体制で実施し、分析を元に対策実行までを行う体制作りと維持については、非常に重要です。ですが、多様で複雑であるが故に、注意が必要なこともあると感じています。
私が好きなセリフに「事件は現場で起きている!」があります。
特に有事においては、広大で、多様性に富んだ米国では、感染症アウトブレイクであれ、災害であれ、様々なレベルで、中央から現場までいかに、正確かつ迅速に相互のコミュニケーションをとるかが問われます。米国ではNational Incident Management System(国家インシデントマネジメントシステム)に基づき、あらゆる緊急事態に現場指揮システム(インシデントコマンドシステム)が適用されます。このシステムに基づき、それぞれの立場にあるものが具体的に何を行うのか理解している必要があります。1対1のコミュニケーションはもちろん重要ですが、広大な米国で緊急時に一同に会することは難しく、緊急のオペレーションが必要な時は、毎日決まった時間に関係各署が参加し、電話会議(またはビデオ会議)を開き、最新の情報を効率的にシェアしていました。こうして集めた情報を元に必要な対応を判断し、それを広く情報伝達することが求められますので、現場で対応する人々への配慮がとても重要です。システムだけではなく、その配慮があって、はじめて、最終的に現場の人々の認識と行動変容を起こせると思います。
例えば、相互のコミュニケーションという点では、現場の雑多煮の情報では、アクションにつながる情報伝達には不十分で、相手の置かれている環境、使う言葉に配慮をします。そのために、私自身は、電子メールやSNSなど便利で有難いものも増えている現代社会だからこそ、平時から可能な限り顔が見える関係を大切にするといった点で工夫をしています。これは、一般の方に向けたメッセージの発信についても同様のことが言えると思います。
問題が大きくなればなるほど、関わる人や部署が増え、混乱しがちですが、平時から信頼関係を構築し、国は現場を尊重しながら、正確な情報を集め、必要な情報を還元し、支援することが必要だと考えます。こういった点は、場所を変えても共通しており、日本では日本にあったよりよい方法を模索しながら、残りの米国での勤務に従事したいと思います。
(編集:成瀨浩史)
●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で3年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。
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