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IDESコラム vol. 15
感染症エクスプレス@厚労省 2018年3月16日

「大切なことは目に見えない」

IDES養成プログラム 3期生:高橋 里枝子

 皆さんは子供の頃に読んだ思い出の本はありますか?私は、幼いころに母や姉と読んでいたサン=テグジュペリ著「星の王子さま」が今でもお気に入りです。心にしみる文章が沢山詰まった本ですが、その中でも時折ふと思い出す一言があります。「大切なことは目に見えないんだ」。この一文は、気持ちや愛情をかけた時間など、大切なことは心で見ることが重要で、それまで生きてきた「ストーリー」は見た目には必ずしも表れないことを示しています。感染症においても、これと同じことが言えます。
どのような病原体が、どのような経路で感染するか、感染症にかかるまでの「ストーリー」は、まさに目には見えませんが、とても大切なことです。この「ストーリー」を知ることが、感染予防につながり、皆さんの命や生活を守ることにもつながります。

 今から約150年前、この目に見えない「ストーリー」を解き明かした大事件が起こりました。当時、ものが腐敗するとき、微生物が自然に発生する、いわゆる「自然発生説」が常識でした。それに対して、ルイ・パスツール氏はその常識に異を唱え、目に見えないが空気中にも微生物がおり、それが腐敗を起こしていることを訴えました。ところが、世間から、加熱により微生物を殺すことが出来るが、自然と微生物がわいてくると信じられており、パスツール氏の主張を受け入れませんでした。そこで、パスツール氏は、フラスコの口を白鳥の首のような形に変形させたフラスコを作成しました。この白鳥の首フラスコは、外界の空気は出入りするものの、落下物などの物質がフラスコ内に入らないよう特殊な形となっています。通常のフラスコは、肉汁を煮沸した後、時間をおくと、腐敗します。一方で、白鳥の首フラスコは、肉汁を煮沸しても腐敗しませんでした。そのことから、腐敗する原因となる微生物は外部から侵入し、煮沸により微生物が殺菌されるが、自然には微生物は発生しないことを示しました。
 このように、パスツール氏は、空気中の見えないものの存在を証明した人物とも言えると思います。その後、多数の研究者の貢献により、微生物が病原体になることも示され、感染症の感染までの「ストーリー」が見えるようになってきました。現在では、パスツール氏は、近代細菌学の開祖とも言われています。

 私は周囲の医師からは、「なんで感染症を専門とするの?」と、よく聞かれます。人類は、この目に見えないものである、感染症に、命を奪われ、感染症と闘ってきました。その闘いは今でも続いており、今後も、国内外の感染症との闘いは続くと思います。その人類と感染症の闘いに携わっていることに熱意を感じています。大学生の時、様々な細菌がカラフルな培地で培養されて、ガスを産生したり、多彩なコロニーを形成したりする様子を実際に見た時の感動は今でも忘れられません。目に見えないくらい少ない量の細菌が、一晩の培養で、翌日には色鮮やかに育ちます。ワクワクしながら研究していましたが、その研究も先代の研究によって、見えないものである、感染症の感染「ストーリー」を見えるようにしてきた「礎」があってのことなのだと思います。

 さて、昨日3月15日には、多くの皆さんが見えていない(知らない)感染症である「HTLV-1」の啓発ポスターリーフレットを発表しました。HTLV-1は、約82万人もの感染者がいると言われていますが、意外と知られていない感染症です。その感染症がときに悪さをし、HTLV-1関連疾患を発病させることがあります。啓発ツールのメッセージは「HTLV-1を正しく知ってください。」としています。「HTLV-1って何?」と思われた方、ぜひ厚生労働省のWEBサイトをご覧下さい。
 私たちは、見えない感染症について、サーベイランスなどの調査やポスターなどの啓発ツールを通して、皆さまに感染症情報が見える(伝わる)ように、頑張って参ります。引き続きメルマガやtwitterfacebookなどのフォローしていただき、感染症予防の取り組みにご参加ください!

HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)に関する情報
プレスリリース
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●当コラムの見解は執筆者の個人的な意見であり、厚生労働省の見解を示すものではありません。
●IDES(Infectious Disease Emergency Specialist)は、厚生労働省で2年前の平成27年度からはじまったプログラムの中で養成される「感染症危機管理専門家」のことをいいます。


HTLV-1の啓発ポスター


HTLV-1の啓発リーフレット(ウラ面)

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