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あさコラム vol.43
感染症エクスプレス@厚労省 2017年2月24日
聖地巡礼
こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。
季節性インフルエンザの流行が落ち着いてきたわが国ですが、お隣の中国
の鳥インフルエンザA(H7N9)の流行が気になります。
中国の国家衛生・計画生育委員会が発表した2017年(平成29年)1月の鳥
インフルエンザA(H7N9)のヒト感染例は192例(うち死亡79例)。
現時点では、ヒトからヒトへの持続的な感染は確認されていませんが、発
生地域に渡航・滞在する場合には手洗いを励行し、生きた鳥を扱う市場や家
禽飼育場への立入を避けていただくなどの注意が必要です。
私たちも鳥インフルエンザA(H7N9)に関する情報収集に努めていきたい
と思います。
さて、昨年2016年(平成28年)、巷の話題となった日本映画ベスト3とい
えば、
・「シン・ゴジラ」(庵野秀明総監督)
・「この世界の片隅に」(片渕須直監督)
・「君の名は。」(新海誠監督)
ではないでしょうか。
(※異論がある方もいるとは思いますが…)
私も劇場で鑑賞しましたが、それぞれの作品自体の素晴らしさに加え、
これら3作品に共通することは、舞台となった場所や風景の細やかな描写ぶ
りです。
その描写が多くの観客の皆さんの心に刺さったこともあり、大ヒットにつ
ながったと考えています。
「シン・ゴジラ」の大田区・蒲田東口商店街や「この世界の片隅に」の呉
市・小春橋、「君の名は。」の新宿区・四谷の須賀神社など、作品の関連場
所への訪問は「聖地巡礼」といわれ、週末になると多くの人々がこれら
の場所に訪れています。
(※ちなみに、ゴジラ上陸の時は、私の家も避難対象でした)
さて、この「聖地巡礼」とは、実在の町や風景を取り込んだ大人向けアニ
メのファンがその地を訪れ、作品に想いを馳せるというムーブメント。
古くは1990年代から聖地巡礼の原点があったようですが、2000年代以降に、
「らき☆すた」等、緻密な背景描写が話題となったアニメがきっかけとなり、
この動きが活発化しました。
巡礼効果で町おこしを狙った自治体が、アニメや映画・ドラマとタイアッ
プして町を取り上げてもらった結果、観光スポットとして集客力がアップし
たとの話もあります。
ネット情報や「聖地巡礼マップ」という便利なWebサービスも充実し、昨
年には「聖地巡礼」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされるなど、
広く世の中に認知されるようになりました。
その一方、騒音や早朝深夜の訪問、住宅地への立ち入りなど、聖地巡礼に
関わる苦情も増えており、「聖地巡礼マップ」のサイト上や制作会社等から
注意喚起を行っている状況です。
そもそも、聖地巡礼とは「信者が聖地を参拝して巡り歩くこと(三省堂・
大辞林)」で、宗教上の行為。
特に、イスラム教のハッジ(大巡礼)は有名で、毎年イスラム暦の12月
(概ね9月~10月)に、世界中から数百万人のイスラム教信者がサウジアラ
ビアの聖地メッカを目指します。
こちらの聖地巡礼について心配なことは、何といっても感染症。
毎年、この時期に感染症が流行するリスクが高くなるとして、外務省から
もサウジアラビアへの渡航者に対して感染症予防を促しています。
近年では、中東呼吸器症候群(MERS)、髄膜炎菌性髄膜炎、インフルエン
ザなどが注目されていますが、様々の国から多数の人々が集まるのですから、
その他の感染も含めて注意が必要です。
具体的には、渡航前にはトラベルクリニック等の医療機関にご相談いただ
き、髄膜炎菌性髄膜炎やインフルエンザなどのワクチン接種を実施したり、
渡航先ではラクダに接触しない、未殺菌の乳や生肉などや不衛生な状況で調
理された食品を摂取しないなど、感染症予防を意識した行動を取って頂ける
ようにお願いしています。
また、早期診断・早期治療のために、帰国時に発熱などの症状がある場合
には検疫所に申し出ていただくとともに、帰国後に症状が起こり医療機関を
受診した場合には、海外に渡航していたことを必ずお伝えいただくよう、検
疫所や旅行会社などを通じて啓発普及にも取り組んでいます。
映画にしても、宗教にしても、「聖地巡礼」の際には事前によく調べ、節
度のある行動を心がけたいもの。
皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
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