第3回労災保険制度の在り方に関する研究会 議事録

1.日時

令和7年2月21日(金) 14時00分~15時36分

2.場所

厚生労働省専用第21会議室(※一部オンライン)
(東京都千代田区霞ヶ関1-2-2 中央合同庁舎第5号館17階)

3.出席委員

  • 京都大学大学院人間・環境学研究科教授 小畑 史子
  • 東京大学大学院法学政治学研究科教授 笠木 映里
  • 明治大学法学部教授  小西 康之
  • 同志社大学法学部教授 坂井 岳夫
  • 大阪大学大学院高等司法研究科准教授 地神 亮祐
  • 名古屋大学大学院法学研究科教授 中野 妙子
  • 亜細亜大学法学部教授 中益 陽子
  • 大阪大学理事・副学長 水島 郁子

4.議題

労災保険制度の在り方について(給付関係等)

5.議事

発言内容
○小畑座長 定刻になりましたので、ただいまから「第3回労災保険制度の在り方に関する研究会」を開催いたします。委員の皆様におかれましては、御多忙のところお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
本日の研究会につきましては、笠木委員及び小西委員がオンラインで御参加となりましたので、会場参加とオンライン参加の双方による開催方式とさせていただきます。なお、笠木委員が15時30分まで、小西委員は15時までの御出席です。また、法政大学の酒井委員が欠席と伺っております。カメラ撮りについては、ここまでとさせていただきます。
それでは、本日の議題に入りたいと思います。本日の議題は「労災保険制度の在り方について(給付関係等)」となっております。まずは前回の補足として、事務局から遺族補償等年金の生計維持要件に係る御説明をいただきたいと思います。その後、本日の議題であります遅発性疾病に係る労災保険給付の給付基礎日額と社会復帰促進等事業について議論を深めてまいりたいと思います。まずは遺族補償等年金に係る資料につきまして、事務局から御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 労災管理課企画班長の狩集です。資料2を御覧ください。「遺族(補償)等年金について‐生計維持要件‐」です。先般、第2回の研究会で遺族補償等年金の支給要件である生計維持要件に関しまして、その運用の変遷等について御意見を頂いたところです。事務局の方で運用の変遷に関しまして、より詳しいリサーチを行ったところであり、前回の説明内容に補足等行いたいと思います。
1ページ目です。生計維持要件に関する行政上の文言、通知に表れているは昭和41年に出ております、この「昭和40年改正法」の施行通知においてです。昭和40年の改正は御案内のとおり、遺族補償給付の年金化が図られた法改正です。こちら資料、下の方を御覧いただきますと、黒い太字部分ですけれども「生計を維持していた」という文言があります。また、最後の行ですけれども、「共稼ぎも含まれる」といったことがこの時点で明らかにされているというものです。
2ページ目です。同じ年の10月に発出しております基発1108号と言われる通知で、こちらの通知に関しましては先般の研究会でもお示しをしているところです。こちらの通知が発出されておりますのは、この昭和41年に先立って出ている施行通知の内容をより具体化したものでございまして、簡単に申し上げますと御遺族の方が同種の年齢ですとか御職業、ほかの一般人の方と比較して非常に収入など上回る状態である、あるいは亡くなられた被災労働者の方と生計依存関係がないことが明らかである。こういった極めて特殊なケースでない限りは、生計維持関係について基本的に認めていくといったことが示されているものです。
その上で、昭和63年、会計検査院の意見表示というものです。こちらについては、いわゆる3世代同居といった家族形態の中で、被災労働者の方がかなり御年配ですとお孫さんと同居していらっしゃる、あるいはお若い被災者の方であればおじいちゃん・おばあちゃんがいらっしゃる。こういった状況の中で、同居という事実だけでこういった祖父母や孫といった方たちが生計維持関係が認定されている。そういった実務が見られたということを踏まえまして、適正化を勧告されているというものでございます。下、矢印が付いておりますけれども、この勧告、意見表示も踏まえまして労災保険法施行規則(労災則)の中に「生計維持要件に関しては労働基準局長が定める基準によるもの」とする第14条の4が創設をされたという経緯がございます。
3ページです。こちらの平成2年に発出されております通知ですけれども、今申し上げました労災則第14条の4に規定する基準について明らかにしたもので、御説明しましたような3世代同居に関する取扱いの適正化を訴えるとともに、この2つ目ですけれども、第1108号通知についても必要な改正を行っているというものです。改正前後ですけれども、黒塗りの部分で、左側ですけれども、こちらで現行の姿になっているというものです。
4ページ以降ですけれども、共稼ぎ等世帯数の推移ということでお示しさせていただいております。こちら昭和60年が起点になっておりますので、遺族補償年金が始まった昭和40年については若干想像で補うところになりますけれども、今から40年前の時点、こちら赤い点線部分ですけれども、男性雇用者、それから専業主婦の方から成る世帯が非常に大勢を占めていたと。その上で、下の方を見ていきますと緑色部分、フルタイムの奥様がいらっしゃる家庭、こちらは現在でも横ばいでございますけれども、その下、パートタイマーの奥様がいらっしゃる家庭、こうして見ていきますと、女性が働かれている、奥様が働かれている御家庭が割合としては小さかったと。一方で時代の変遷とともにこうした家族変遷が大きく変わっていっている。今となっては、こういった専業主婦世帯が逆転しているという状況です。こうした中で、先ほど申し上げました生計維持関係に関する運用に関しましても、通知上の文言というものは大きく変わっていないとは認識しておりますけれども、こうした世帯数、世帯の在り方との関係を考えるということがあるのかと考えております。
5ページです。こちら、御参考ですけれども男女別の賃金格差の推移です。1965年と2003年、2023年、数十年刻みで表したものです。依然として男性の方が高いという実態ですけれども、男女の賃金格差については縮小傾向であるということが伺えるかと思います。
6ページです。こちらも御参考です。こちら、世帯の中で女性が収入を得ている、世帯の収入として女性がウェイトを占めるようになっていることがお分かりいただける資料です。資料に関する御説明は以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。こちらの生計維持要件に係る補足説明を踏まえた遺族補償等年金に関する議論は、本日の議題の終了後に、時間が許すようであれば行いたいと思います。
それでは本日の議題の1つ目、「遅発性疾病に係る労災保険給付の給付基礎日額」に入りたいと思います。まずは事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 御説明します。資料の1をまず御覧ください。こちらは昨年末に開催されました「第1回研究会」、このとき、労災保険に関します諸課題について皆様にフリーディスカッションで頂いたものです。その中で、本日議題とさせていただいております「給付基礎日額」と「社会復帰促進等事業」に関する主な御意見を事務局の方で取りまとめたものです。こちらで頂いておりますような御指摘も踏まえながら、本日の資料等については構成させていただいているという次第です。
それでは、資料3を御覧ください。「遅発性疾病に係る労災保険給付の給付基礎日額について」です。まず、1ページ目の論点です。遅発性疾病(石綿関連疾患など)ですけれども、こういった有害業務に従事された時点とそれを原因として病気が発症されるといった場合ですけれども、非常に時間的な乖離が大きい。数十年単位でずれがあるということになってまいります。こうした時に給付基礎日額をどのように考えていくかといったことが課題というように考えております。
大きく問題となるようなケースについて、2パターン、下記印で記載しておりますけれども、1つ目は、有害業務に従事された事業場をお辞めになったあと、別のお仕事をされていてその際に発症された方、2つ目ですけれども、有害業務に携わられた事業場をお辞めになったあと全く就業されていない、リタイヤされている状態で発症された方、この2つについてが大きく問題になってくると考えております。
2ページ目です。労災保険給付の給付基礎日額についてです。労災保険給付のうち、休業補償給付などの給付額の算定の基礎としまして給付基礎日額というものを用います。この給付基礎日額については、原則として労働基準法に定めております平均賃金を用いるというように労災保険法の第8条1項で規定されているところです。
しかしながら、この2つ目の○部分ですけれども、平均賃金をそのまま給付基礎日額とすることが適当でないと認められるような場合については、平均賃金とは異なる方法で算定することというように第8条2項では規定されておりまして、具体的には施行規則の第9条1項で定めがあります。こちらの①から③、省令上、直接例外的な取扱いを定めているものです。
一方で④ですけれども、この①から③のほか、平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められる場合について、こちらについては労働基準局長が定める基準によって算定するということが規定されております。具体的には、労働基準局長が発出します通知で行うことを想定していますけれども、この中で特によく使われているものがこの赤字部分ですけれども、昭和50年9月23日に発出されております基発第556号、556号通知というように呼称いたしますけれども、こちらです。この通知に関してですけれども、遅発性疾病などの場面で実際に事業場を離職されていらっしゃる方が発症されたとき、この方たちについては最後に離職された事業場を離職される前の3か月間の賃金を算定の基礎にすることが定められているものです。
3ページ目を御覧ください。遅発性疾病に係る給付基礎日額の在り方ですけれども、現状について今申し上げましたけれども、556号通知の取扱いをお示しさせていただいております。
補足ですけれども、※の部分です。こちら、当然、遅発性疾病の場合ですと、離職されてから数十年たっていると、最後にそういった有害業務に当たられた事業場が当然なくなっているなど、賃金が分からなくなっているといったことも想定されます。そうした場合については同種労働者や、あるいは統計を用いて推算するといった取扱いについても定められておりまして、こちらは昭和51年に出ております193号通知が基になっております。
課題の部分ですけれども、こちらの下のピクトグラムの図を御覧いただければと存じます。有害業務に実際に従事されていた方、特にお若いときに従事されていた方を見ていきますと、幾つかの事業場を渡り歩く、幾つか働いていたということがよく見られるところです。こちらの例として挙げさせていただいておりますのが、20代で3か所の事業場で勤務されて、最後、C事業場という所で有害業務に最後にあたられた。この方、そこで職種が変わりまして、その後は事務職として長年働かれて50代になっておられると。そうすると、一般的に賃金等高くなっているところでございますけれども、このとき、現役中に発症すると、このケース①の部分ですけれども、発症時の給付基礎日額については1万2,000円となっております。一方で、この556号通知を踏まえますと、このC事業場の給付基礎日額(8,000円)というものが基礎になってまいります。これは労働基準法の災害補償責務を踏まえた考え方に基づいて、C事業場の給付基礎日額算定の基礎としているところですけれども、稼得能力という観点から見たとき、この被災者の方からは必ずしも御納得は得られないという場面もあり得るかと思います。
もう1つのケースですけれども、この矢印の点線以降の部分、ケース②ですけれども、この被災者の方、70歳以降で発症されていると。そうしますと、一般的にはお仕事を完全にリタイアされているという状況ですけれども、ここで発症した場合であってもこのC事業場の給付基礎日額(8,000円)というものを基に補償が得られるというものです。課題部分を太い矢印で書かせていただいておりますけれども、労災保険制度の趣旨に照らしたとき、稼得能力の補償といったところを考えたとき、このケース①や②といったものをどう捉えていくのかということが課題としてあり得るのかなと考えております。
4ページです。こちらは今申し上げましたようなケースについて、特に被災者の方から見たときにどういった映り方をするか。本来、もらえているであろう御本人としても思うような賃金の部分がないですとか、あるいは実際に就労されていない方について補償を行っていると。そういったものについて視覚化した図です。
5ページ目を御覧ください。こちら、石綿関連疾患に係る労災保険支給決定者の分布状況についてです。こちらの支給決定の情報を基に、最終ばく露時の年齢と発症時の年齢について相関関係を示したものです。こちら、御覧いただきますと一般的にはやはり65歳以降、お仕事をリタイアされているような方が多い年代で発症されている方が大勢を占めているかと思われます。一方で赤い枠内ですけれども、こちら50代、働き盛りの時期に発症されている方も一定数いらっしゃいます。こういった方たち、恐らく、10代から30代というお若いときにばく露されて、それから30年程度たって発症している。そういった方たちではないかと思われます。
6ページです。こちら、御参考です。有害業務に当たられている方、建設業に携わられている方が多いところですけれども、この建設業についてもほかの職種と同様に50代後半頃に賃金としてはピークが来ると。そういった賃金水準カーブを示しているものです。説明について以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。資料3の1ページにある論点に沿いまして、御意見をお伺いできればと思います。御発言の際には、会場の委員におかれましては挙手を、オンラインから御参加の委員におかれましては、チャットのメッセージから発言希望と入力いただくか、挙手ボタンで御連絡を頂きますようにお願いいたします。それでは、いかがでしょうか。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益でございます。労災保険法第8条1項及び労働基準法第12条1項からは、疾病の発症時の賃金を基礎にするとの原則が伺えますから、使用者の災害補償責任は、時間軸としては発症時の賃金に及ぶというのが法の姿勢だと考えております。この点、労災保険法第8条2項では、労働基準法の平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められるときに限って、この例外を取れるわけですが、この8条2項を受けた労災保険法施行規則第9条1項の各号は、発症時の平均賃金を用いると、労働者に不利になるケースを列挙しているように見えます。つまり、8条2項による「適当でない」とは、労働基準法の平均賃金によれば、労働者にとって不利益なので適当でないとの考え方であろうと推測されるわけです。
としますと、施行規則第9条1項4号の厚生労働省労働基準局長が定める基準に従って算定する額も、発症時の平均賃金を用いたのでは労働者に不利になるケースが想定されると考えるのが原則であって、これとは逆に、発症時の平均賃金を用いたほうが有利であるのに、ばく露時の平均賃金を用いるには、労災保険法第8条2項に言う「適当でない」との理由が相当に積極的でなければならないのではないかと考えます。
既に申しましたように、労災保険法が労働基準法の災害補償を上回る給付を目指してきたことも考え合わせますと、労働基準法の例外的仕組みを採用するのは、それが労働基準法の補償内容よりも有利な場合と考えられるだろうというのも追加的な理由です。よって、発症時の平均賃金を用いたほうが有利であるにもかかわらず、なぜ、適当でないとして、ばく露時の平均賃金を用いられたのかの理由がお分かりであるようでしたら御教示いただければと思います。
一方、仮にさほど説得的理由がないのだとすると、労働者が危険因子にばく露した事業場を退職したものの、再就職したようなケース1のような場合には、原則として発症時の賃金とすると。しかし、ケース1のように再就職したものの、ばく露時の事業場よりも賃金が低いとか、あるいはケース2のように、現在は職に就いていないというときには、労災保険法施行規則第9条1項の各号に準じて、労働者の不利益にならないように、ばく露時の平均賃金など、適当な時点での賃金を用いるというのが基本的な改正の道筋ではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。事務局から何かありますか。よろしいですか。
○労災管理課長 ありがとうございます。この556通達において、どうして不利益になるような取扱いになるかもしれない扱いにしたのかは、正確なところは確認はできませんが、一つ想像するには、労基法の災害補償責任というときに、有害業務をさせた事業主に責任を負わせるという発想の下で、その当時の有害業務を行っていた事業主が支払っていた賃金をベースにするという考え方を採用したのではないかと考えております。
○中益委員 ありがとうございます。しかしながら、疾病というのは、一般に危険因子にばく露した時点と発症時に時間的なずれはあると思いますので、労働基準法自体がそれを無視したとは思えないところです。その時間の長短は当然考えられます。しかしながら、労働基準法や労災保険法を見ましても、その文言上は、やはり発症時の賃金を補償するというふうに読めるところですが、災害補償の責任自体、先ほど申しましたように、時間軸としては、発症時の賃金に及ぶということを前提にしているのではないかと考えるところではございます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、中野委員、お願いいたします。
○中野委員 中益委員とは少し違う角度からお話させていただきます。労災保険の社会保障的性格を強調するならば、こちらの資料の3ページの真ん中のケース①、「退職して別の事業場に勤務中に遅発性疾病を発症する」というケースについては、発症直前の生活水準を保障するという考えに基づいて、現在の事業場における平均賃金に基づき給付基礎日額を算定するという方法もあり得るのではないかと思います。
ただ、退職した事業場の賃金を現在の事業場の賃金が下回るとか、賃金が以前よりも下がっているというような場合には、労働基準法の災害補償責任に戻って、最終ばく露事業場の賃金に基づき算定される給付を最低保障するという形です。先ほども出てきた、平均賃金とは異なる方法で給付基礎日額を算定する場合を定める、労災保険法施行規則第9条第1項の1号及び2号も、同一事業場での就労を前提としていますが、このような直近の生活水準を保障するという考えに基づいているように思われました。
一方、資料3ページの右側のケース②、すなわち、退職後、現在は就労してないという状況で遅発性疾病を発症するケースについては、この資料の絵ですと、既に高齢になって年金生活に移行しているという例ですが、ほかにも就労可能年齢である現役世代であるが、たまたまそのとき失業している場合など、様々な場合があり得て、どのように考えるべきかちょっとはっきりと言い切ることが難しいように思えます。ただ、この場合には、私の先ほどの考え方に基づくと、参考にすべき直前の生活水準がないということになりますので、現在の取扱いのように、退職した最終ばく露事業場の平均賃金に基づいて給付基礎日額を算定するしかないように思われました。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは水島委員、お願いいたします。
○水島委員 ありがとうございます。資料3の3ページに、「労災保険制度の趣旨に照らしてどのように考えるべきか」と書いていただいて、そのとおりなのですが、これまでの議論でも様々な御意見があり、また労災保険制度の中に複数の趣旨・目的があるように思われますので、難問だなと思いました。また、過去の給付基礎日額の例外にかかる局長通知において、労災保険制度の趣旨に照らした判断がこれまでなされたのか、先ほどの課長の回答からしますと、その検証は難しいのかなと思いますが、本来であれば、過去の給付基礎日額の例外を、通知で行ったものについてどのような趣旨で行われたか、検証が必要と思います。
その上で、先ほど課長がお話になった内容は、私もそうではないかと推測します。私は、労災保険、労災補償は災害に対する補償、つまり原因となる有害業務への従事に対する補償と考えていまして、給付を考える際も有害業務への従事に着目すべきと考えます。その後の働き方の違いや退職のタイミング、発症時期の違いにより、給付基礎日額の扱いが異なることはかえって公平ではないと考えます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、笠木先生、お願いいたします。
○笠木委員 ありがとうございます。今まで既に出ている意見と重なる所もありますが、私の声が響いているようですが大丈夫でしょうか。変なように聞こえているようで、失礼いたします。今日、御紹介いただきました昭和50年通知は、今、水島委員からも出ておりましたように、労災の原因となった、危険の原因を作った使用者とのつながりというものを特定した上で補償内容を決定するという考え方になっているのかなと、私も理解いたしました。
他方、確かに中益委員からも発言がありましたように、法令上の定めを素直に読めば、あくまで疾病の発症が確定した日ということで、そして、疾病の場合には一定のタイムラグがあることが当然である、ということで、その法の予定した範囲で、むしろ原則に戻すことが適切であるという考え方もあるのではないかと思いました。
ただ、この規定が置かれたときには、30年も40年もたってから疾病が出てくるといったことまで、想定されていなかった可能性がありますので、そこをどう考えるかということになってくるかと思います。こうした長期間が経ってからの発病ですと、発症時には賃金水準はかなり高くなっているということにもなるかと思います。
そう考えますと、結論としては、労働者の現在の生活の賃金水準に合わせて補償をしていくということでよいのではないかと思っているのですが、その理由付けとして、労災にもいろいろな趣旨がある中で、労働者の生活補償を行う労災保険の役割、というところから、労災保険の社会保障的な性格を重視するという説明をした上で現在の所得水準を補償するということを行っていくべきではないかと思います。
その場合には、例えば、過去に働いていた事業場との関係でメリット制が適用される場合に、そのメリット制の適用を一部にとどめる、つまり、当時の賃金水準との関係で特定される給付水準との関係でのみメリット制の適用を認める、それは、社会保障的な趣旨から給付を拡大しているためである、というような説明も、一案としては考え得るかと思いました。
他方で、逆に賃金水準が下がってから疾病が発生したり、あるいは完全に離職しているというケースはどう考えるかというのが非常に難しいというのは、先ほど中野委員からも発言があったとおりかと思います。私は、この場合には、引き続き50年通知の取扱いで、疾病を発症させる因子へのばく露時点でよいのかなと考えております。どういう場合には法令上の原則で扱っていき、どういう場合には50年通知の取扱いにするのかというところについて、もう少し理論的な整理が必要かなと感じております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○坂井委員 発言させてもらいます。ここで指摘していただいた、資料の3ページで挙げられているケース①、ケース②のような問題というのは、障害補償年金の給付設計との関係では、給付内容の定型化によって生じ得る不合理な側面というものが顕在化したという捉え方ができるのではないかと思います。すなわち、障害補償年金は、支給額に関しては被災時の賃金により填補されるべき損害の内容について、被災時という一時点の賃金によって填補されるべき損害の内容を確定するとともに、支給期間に関しては、多数の労働者が稼得能力を喪失すると考えられる老齢期にも支給を継続しているということになります。これらの事情が、資料のケース①では給付が過小となるという形で、ケース②では給付が一見すると過剰にも見えるという形で、問題の背景になっているのではないかと思います。
そうだとしますと、資料の2ページで整理していただいています、1つは給付基礎日額の算定に関する特例によって、何かしらの対処をするという対応の仕方、選択肢のほか、より根本的に給付設計に修正を加えるという選択肢も検討に値するのではないかと考えた次第です。
具体的には、2点、検討の余地があるのではないかと考えております。若干長くなりそうですが、お話をさせていただきます。第1ですが、給付基礎日額の算定方法についてです。若年の被災労働者については、業務災害がなければ、その後の昇給が期待できたはずですし、中高年の被災労働者については、逆に被災時の賃金水準というのは一定年齢に到達後の低下が見込まれているということになります。現在は、給付基礎日額をその被災時で一旦確定した上で、全般的な賃金水準に応じてスライドするとともに、年齢による賃金変動に関しては、年齢階層別の最低額、最高額を設けるという限りで考慮しているということになります。
これらの措置を発展させて、年齢別の賃金水準をも考慮したスライドということを検討する余地はないのかなと思った次第です。仮にこういうことが可能であれば、若年の被災労働者には、想定される賃金水準の上昇に応じた給付の充実を図ることができますし、高年齢の被災労働者には、本来であれば生じるはずであった賃金低下を反映するという形で、過剰な給付を抑制することでその損害の填補という制度趣旨に、より忠実な制度設計とする余地があるのではないかと考えております。
もっとも、全ての労働者に妥当し得るような年齢に応じた賃金変動というのは、合理的に想定できるのかということは、なかなか難しい問題だなと思います。あるいは、そもそも賃金制度において、年功的な要素が後退している現状において、その年齢に応じて給付額のスライドをするということが、齟齬があるのではないかという指摘などもあり得るかとは思います。検討の可能性としてお話をさせていただきました。
もう1点、第2点は、支給期間との関係です。老齢期になっても支給を継続するということに関しては、それは被災労働者の保護、年金給付の趣旨ということからすれば、もちろんそれが妥当だという話に当然なるのだと思います。あるいは、加齢に伴う稼得能力の減退の経過が多様であるということからしても、稼得能力がなくなるような世代なんだから年金を払わないという話というのは出てこないだろうと。そういう意味では、支給を継続すること自体に問題があるということはもちろんないのだろうと思います。
しかし、他方で、稼得能力の喪失を前提として支給されている厚生年金や国民年金による老齢厚生年金、老齢基礎年金との関係では検討の余地があるように思われます。資料のケース②では、既に引退した被災労働者に遅発性の疾病が発生しているわけですから、公的年金から老齢年金を受給していると思われます。現行法上は、労災保険の障害補償年金は、同一障害による障害厚生年金、障害基礎年金との調整のみが予定されております。したがって、このケースでは、障害補償年金と老齢年金が併給されることになるのだろうと思います。
他方で、障害補償年金が稼得能力の減退・喪失に着目して、損害の填補を図るという給付であることに鑑みますと、稼得能力の喪失があるから支給されるという、老齢厚生年金、老齢基礎年金の前提との間に齟齬があるということになりますので、両者の間で併給調整を実施するということも合理的ではないかと考えております。これによって、ケース②に関しては、抜本的な解決にはなりませんが、実態とのかい離、そういう意味での不合理性という点が軽減される余地はあるのではないかなと考えております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。今、委員の皆様から御意見が出ましたが、一貫させていくのか、それとも分けるのかという2つに御意見が分かれていると言えるかと思います。また、抜本的にいじるかどうかという御意見も出ました。ほかは何かございますか。よろしいでしょうか。
それでは、御意見が出尽くしたかと思われますので、事務局から、もし何かありましたらお願いいたします。
○労災管理課長 御意見、ありがとうございました。先ほどの坂井委員からの、年齢スライドの御意見をいただいたところに関して、既に御案内かと思いますが、現行でも年齢に応じてスライドをさせる取扱い、上限と最低限度額はありますが、その幅の中で現状でもやっているということは補足をさせていただきます。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、次に、社会復帰促進等事業について議論していきたいと思います。資料4について、事務局から御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) それでは資料4を御覧ください。「社会復帰促進等事業について」です。論点案です。まず論点①ですが、「保険給付と労働者向けの社復事業との給付の関係(役割分担)をどのように考えるのか」についてです。こちらは3つ書いておりますが、保険給付と特支金との関係、保険給付と特支金以外の社復事業との関係、それから特支金とその他の社復事業との関係ということを挙げております。社復事業のメニューの中、特支金もそうですが、保険給付化といったことも1つの手ではないかといった考え方もあるところですが、こうした保険給付本体と社復事業との関係性について考えてみるといったことで論点設定いたしております。
論点②ですが、社復事業の給付に関して後ほど御説明するように、この不服申立て、審査請求の在り方、保険給付とスキームが異なっております。そのことについてどう考えるのかという論点設定です。
論点③ですが、労働者等に対してお支払いしている特支金ですが、現行はこちらは不服申立てとか、取消し阻止の対象となっておりません。このことについて論点②も踏まえながら改善の余地がないかといったことで論点としております。
論点①「保険給付と社会復帰促進等事業の給付との関係」です。制度概要の部分ですが、労災保険制度、この中の目的規定の中で保険給付本体、それから社復事業を実施するといったことがうたわれておりまして、社復事業の実施に関しては第29条で規定がなされております。現在の社会復帰促進等事業、通称「社復事業」ですが、こちらは昔は労働福祉事業、通称「労福事業」というふうに言っておりましたが、労基法に定められている事業主責任の履行を促すことに資する事業ということで、広範に様々な事業を実施していたところです。
しかしながら行政改革、特別会計改革の一環で、こうした事業の内容について適正化を図るということで見直しが行われました。具体的には下の表の真ん中部分ですが、保険給付との関係とありますが、ここにあるような保険給付との関係性を踏まえながら事業の位置づけを再構築しているところでして、隣にあるように現行法第29条1項1号から3号までの事業内容が整備されているというところです。その上で平成19年改正において、名称についても現在の社復事業に改められています。
3ページ目です。「社会復帰促進等事業の給付の性質~特別支給金の位置付け~」についてです。特別支給金、通称「特支金」ですが、これは昭和49年に設けられたものでして、このとき、公的諸給付が上昇しているといった情勢や、あるいは労使間の「上積み」と言われる慣行についても踏まえながら創設されたものです。ただ、この創設当時の考え方を見てまいりますと、下の大きな座布団の部分ですが、当時の労災管理課長の事務連絡ですが、この黒い太字下線部分を御覧いただきますと、特支金については過渡的な性質を有しているもの、情勢の推移と相まって、今後、検討に待つべきと記載されておりまして、暫定的な要素を持つ制度であったということがうかがわれるかと思います。
4ページです。特支金の位置付けの2つ目です。昭和52年に特支金制度の拡充が行われておりまして、具体的にはボーナス特支金の創設が行われております。こちらは特別支給金、当初は特別支給一時金というものでして、こちらについては算定基礎が保険給付と同じく、給付基礎日額を用いておりました。しかしながら、給付基礎日額についてはボーナスのように特別な給与といったものは含まれておりません。しかし、我が国の賃金慣行を見ていくとボーナスといったものが比較的一般的であると。そういったことも踏まえて、こうした賃金慣行を実質的に補完する、労働者の方の稼得能力をより適切に反映していくということで、こうしたボーナスについても算定基礎にするような特支金が設けられているということです。これによってページの下の部分ですが、現在は特支金については全部で9種類ありまして、その隣の積み木図でお分かりいただけますように、保険給付本体と相まって被災労働者や家族の方たちの生活をお支えするものになっているという状況です。
5ページです。特支金の位置付けの3点目ですが、申し上げたとおり特支金について当初創設の段階では、そうした暫定的な要素を持っていたものですが、こうした経緯の中で広く労働者の方をお支えするものになっています。こうした保険給付本体と同じく、金銭給付というところで問題となってくるのが、損害賠償の取扱いです。例えば、使用者の方が被災労働者の方などに損害賠償をお支払いした場合、保険給付本体ですと、それを相殺する、調整するといったことが法律上定まっておりますが、この特支金についてはそういった規定がないということで、その調整の可否の裁判例が長い間分かれておりました。しかし、こちらに紹介しております平成8年の最高裁の判例ですが、特支金については保険給付本体と異なるものであると、損害賠償との相殺の対象にならないということが判示されておりまして、今日ではこの判示内容に基づいた実務が広く行われているということです。
6ページ目です。「療養(補償)等給付とアフターケア」についてです。こちらは先般の研究会の中でも労災保険制度のリハビリテーションの位置付けについて御意見を頂いたところです。現状の部分ですが、リハビリテーション、捉え方は幾つかあるところですが、労災保険制度の中では、被災直後の「急性期」、「回復期」と言われるステージにおいて行われるものをリハビリテーションと捉えておりまして、こちらについては基本的動作能力の回復などを目的として理学療法として行われるもの、すなわち治療ですので、療養(補償)等給付として位置付けているというものです。
一方で治癒、症状固定ですので、障害が残ってしまった場合になってまいりますと、これ以降は日常生活の維持・改善、QOLの向上といった場面になってまいります。この「維持期」については保健指導といったことで、アフターケア制度といったものの中で保健指導が実施されております。こうした被災直後からの一連の流れを全体的に見てリハビリテーションというふうに見る向きもありますが、保険制度の中ではこうした保険給付と社復事業とのすみ分け、役割分担といったものがなされているということです。
7ページ目です。論点②です。「社会復帰促進等事業の給付に係る審査請求の在り方」です。社復事業に関しては、当初は行政処分ではない、すなわち審査請求や取消し訴訟の対象ではないという取扱いがなされておりましたが、平成15年の最高裁の判例を踏まえまして、取扱いの変更がなされています。このときの裁判でも問題になりましたが、労災就学援護費ですが、これと同様の性質を有する社復事業については、局長通知の中で処分性があるといったことを明らかにしています。また、審査請求が実際に始まって、実務の中で処分性のある社復事業の項目については厚生労働省令に定める必要があるということが総務省の行政不服審査会からも答申がなされておりますので、それを踏まえた省令改正といったものも行われています。
8ページを御覧ください。こちらの労働者や、あるいは御家族の方に向けて行われている社復事業に関して名称、概要、それから規模などについて一欄化させていただいたものです。この中を見ていくと、下から2つ目にありますが、特支金があります。執行額や支給実績を御覧いただきますと、社復事業の中でも非常に大きなウェイトを占めているといったことがお分かりいただけるかと思います。一方でこの特別支給金についてですが、一番左側の欄を見ていただきますと◎が付いておりませんが、これは処分性がないものであるということを表しています。
9ページです。「社会復帰促進等事業の給付に係る審査請求について」です。労災保険法の中で行われる処分について、こちらは労災保険法第38条では、保険給付に関する決定については、不服申立ての一般法である行政不服審査法ではなく、労働保険審査官及び労働保険審査会法、通称「労審法」と言いますが、この労審法に基づいて処理を行うということが規定されております。しかし、社復事業、こちらを繰り返し申し上げますように保険給付とは異なるものですので、この労審法による不服申立ての処理といったものができないことになってまいりますので、行政不服審査法で審査請求等が行われるということになってまいります。このとき、どういったことが生じ得るのかというのが下のピクトグラムの図ですが、例えばここでは業務上外を争っている事例ですが、審査主体が違うということで判断が分かれ得るという問題があります。
実態としては、2の課題部分、1つ目の○の※にあるように、保険給付本体の審査請求を先に処理して、その判断を待った上で社復事業に係る審査請求を処理するということで判断の齟齬が生じないようにしているということです。一方でそれだけ処理に時間が掛かってくるといった問題もあります。
10ページ目です。今、申し上げたような二股の運用に関してですが、こちらについては社復事業に係る審査請求について、総務省の行政不服審査会の答申において審査請求人の方に2重の負担をしいていると、1つのプロセスの中で行うように制度改善を図るといったことが複数回にわたって勧告をされているということです。
11ページです。こちらは申し上げた審査手続が二手に分かれているということについて審査請求人を中心に図に表したものです。御参考です。12ページです。論点③です。特支金について労災就学援護費などと同様に処分するのを認めてよいかというものです。特別支給金のうち、いわゆる特別支給一時金、こちらについては給付基礎日額を算定基礎で用いているということもありまして、保険給付と同様の手続が行われていると、こういったものを随伴性が高いと言っておりますが、いわばこの特別支給一時金の固有の不服申立てといったものがなかなか想定しにくいということで、これまで不服申立ての対象となっていないという実態があります。一方で、ボーナス等を基礎にしているボーナス特支金については、こちらは保険給付と異なる算定基礎ですので、ボーナス算定基礎日額のみに不服がある場合など、訴えの実益があるとも取れますが、特支金として一体的に処分性を考えるという観点からも、このボーナス特支金についても処分性が認められていないということです。一方で、論点②で申し上げたような審査請求の体制が二股に分かれているという点について、仮に労審法の中で一本化した処理が行われるということであれば、こうした特支金に関する取扱いについても、取扱いを改めていくといったことも想定されるのではないかといったことで論点として挙げております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、資料4の1ページにある論点に沿って御意見をお伺いできればと思います。事務局からは、論点①~論点③までの3つとして示されておりますが、論点1と論点2、3とに分けて議論をしたいと思います。まず論点1につきまして、御意見がありましたらお願いいたします。ありがとうございます。地神委員お願いいたします。
○地神委員 地神です。この事業というものにつきましては、労災保険以外でも社会保険の中に幾つか見られるものでありますが、いろいろ見ていきますと事業が保険給付と異なる点は、やはり法律改正を経ずに、極めて柔軟な対応ができる、現実の必要性、予算措置などに併せて柔軟な対応ができるメリットがあることが見て取れます。他方で、事業を受ける側、労災ですと労働者やその家族などになるかと思いますが、そちら側からすると法的な立場が不安定なものにならざるを得ないことになります。そのようなことを考えると、その裏返しとして、いわば恒常的に必要があり、かつ保険給付として成り立つ程度に定型的な事業については、法律により明確にしておく。具体的には、保険給付として扱うメリットがあるように思います。それを踏まえて、この社会復帰促進等事業のうち、恒常的な必要性があり、定型的なものというのがあるかというふうに考えますと、これは特別支給金に関してその点が認められるのではないかと思っております。特別支給金については、特に休業補償などを考えますと、特別支給金があることにより、初めて業務外の傷病に対する健康保険の傷病手当金の内容を上回るということになるわけであります。60%が80%になることにより上回る。そのことを考えますと、使用者責任に基づき、業務上であることを理由に、通常の業務外の負傷、疾病に比べて、手厚い保障を行う労災保険の趣旨からしますと、特別支給金の支給というものは極めて必要性が高いものです。かつ、資料でお示しいただいたように、当初は確かに流動的なものである、一時的なものであるような内容を記載していただきましたが、もはや今の時代、今申し上げた必要性や現実に支払われている補償内容などから考えますと、流動的なものとはいえず、恒常的なものと、もはや言えるのではないかと思っております。
したがって、特別支給金に関しては法定の保険給付化をするのが良いのではないかと思います。なお、そのようにすることにより、後ろの論点になってしまいますが、審査請求の問題、処分性の問題は、その部分については解決が可能になります。
他方で私自身は、保険給付化に比較的賛成する立場ではありますが、少し気になるのは、資料の5ページに挙げていただいている最高裁判例などに従いますと、現在の特別支給金は損失の填補ではなく、社会保障的性格が極めて強いことが言われております。これを保険給付化することにより、いわば労災保険の社会保障的性格が後退すると見る向きもなくはないかと思っています。そのような点を指摘される方もいるのではないかというのは少し気になっているところです。
また、同じくこの5ページの最高裁判例との関連で、これまで特別支給金は、損益相殺の対象にならないとされてきたものがなるようになるということで、民事上の損害賠償との調整に関しては、労働者側に不利な状況が発生し得るという点も少し注意が必要かなとは思います。とはいえ、やはり労働者に対する補償の安定という点では、どちらかといえば私は法定化して保険給付として扱う方向性が良いのではないかと思っております。
もう1点。位置付けという点で言いますと、以前の研究会で私が、リハビリテーションというものの給付化があるのではないかということを申し上げました。その点が6ページに表などでまとめていただいておりますが、改めてこのようなすみ分けというイメージを書いていただいたところ、アフターケアという点が事業として扱われていると。この具体的内容を見ますと、以前私は、ここは保険給付化したほうがいいのではないかと申し上げましたが、改めて内容を見てみますと、このアフターケアについては保健指導など比較的柔軟な対応が必要なものである。保険給付になじむ定型的なものではないという可能性もありますので、これで改めてまとめていただいたものを見た感じでは、現行のこのすみ分けが合理的なものではないかと考えるに至った次第です。そういう点では、以前と少し違うことを申しているかもしれません。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、いかがですか。中益委員お願いいたします。
○中益委員 中益です。私から、1点質問があります。資料3ページの特別支給金の点です。この創設時の改正において、障害補償年金と遺族補償年金に関しては保険給付の引上げとなったのに対し、休業補償給付及び長期傷病補償給付の年金に関しては、特別支給金となったとあり、対応が分かれた様子が分かります。この具体的な理由や事情がお分かりでしたら、もう少し詳しく御享受ください。資料によれば、各給付の展望、労使間の上積みの動向等が流動的であったようですが、その後50年ほど経ち、地神委員も御指摘のとおり、状況が変わった可能性があるためです。よろしくお願いいたします。
○小畑座長 御質問ですが、事務局はいかがですか。
○労災管理課長 いろいろ過去の経緯を調べて、分かる範囲で資料でご紹介をしております。わかった範囲でご紹介しているのがこの資料の内容ということで御理解いただければと思います。
○小畑座長 よろしくお願いいたします。ありがとうございます。ほかは、いかがですか。中野委員お願いいたします。
○中野委員 ありがとうございます。特別支給金については、先ほどから議論も出ておりますが、本日の資料でも御紹介いただいているように、平成8年の最高裁判決において、保険給付と性格が異なるものであるとされ、損害賠償に際し損害額から控除しないとされています。しかし実際には、保険給付に対する上積みとして機能しており、実務においても保険給付と一体のものとして支給されています。
加えて事業主は、特別支給金を含む社会復帰促進等事業に係る費用に対しても、労災保険の保険料を支払っています。事業主からすると、保険料を負担しているにもかかわらず、特別支給金が損害額から控除されないため、その部分について重ねて損害賠償を払わなければならず、二重の負担を負っているということになります。ですので、例えば休業特別支給金については、休業補償給付自体の支給率を給付基礎日額の8割に引き上げることにより、保険給付と一体化してしまえば、損害賠償との調整もなされることになりますし、この後の論点③の処分性の問題も解決することになり、制度としてはとてもすっきりするのではないかと思います。
ただ労働者側からしてみると、特別支給金に相当する分の損害賠償が得られなくなりますので、一見すると不利益な制度変更に受け取られてしまうかもしれません。ですが、個人的にはそれが本来的な制度の在り方ではないかと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかは、いかがですか。坂井委員お願いします。
○坂井委員 私からは、障害給付、遺族給付、特別支給金の関係について、そして、療養補償給付とアフターケアの関係について、2点簡単に発言いたします。1点目の特別支給金は、ほぼ感想というか、明確な意見があるわけではないのですが、気になるところとして算定基礎日額の算定方法が直近1年間の特別給与によることになっているわけですが、この金額は夏のボーナス、冬のボーナスが中心になってくるわけで、非常に不確定要素に左右されるところが大きいということで、とりわけ保険給付と位置付けることになったら、このボーナスに相当する所得補償の適正な算定の仕方はどうあるべきなのだろうかというところは非常に難しい問題だなとこの制度を見て感じておりました。
もう1点、アフターケアに関しては、現在療養補償給付の範囲を治癒あるいは症状固定までという切り方をする、これは医療保険でも同じ考え方ですが、そういった取り扱いは明確であり、一定の合理性もあるのだと思います。他方で、医療技術の進歩もあり、医療の役割は治癒するまで、症状固定までにとどまらないものとなってきているのではないかなと思います。そういう意味では治癒、症状固定に続く段階で提供されるアフターケアに傷病や障害に対する医学的なアプローチとして、相応の役割があるのだという評価が客観的にできるのであれば、被災労働者への補償として保険給付に位置付けるという議論の余地もあるのではないかと感じております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかは、いかがですか。先ほどから論点②、③とも関係してきてしまっておりますので、②、③も含めて議論をしていただければと思いますが、御意見などございませんか。中益委員お願いいたします。
○中益委員 恐れ入ります。中益です。論点②及び③に関する処分性について質問があります。資料7ページによれば、労災就学援護費と同様の性質を有するとされた社会復帰促進等事業については処分性があるとされたとのことですが、この同様の性質とは何を指すのかを御享受いただければと思います。最高裁判決では、保険給付の仕組みとの類似性が1つの重要な考慮要素となったと評価されているように思いますが、新たに処分性があるとされたほかの事業も、こうした観点から処分性があるとされたのか、あるいは別の事情が考慮されたのか、お分かりでしたら御享受いただけましたら幸いに存じます。以上です。
○小畑座長 御質問ですので、事務局からお願いできればと思いますが、いかがですか。
○労災管理課長 この当時の最高裁判決の中で、処分性ありだとする理由が示されており、これが①②③④と4点あります。そういった理由付けに関して、それと同じような性格のあるものについては同じように処分性を認めるという取扱いをしてよいのではないかということで、同じような性格付けと位置付けられるものについては処分性を認めることにしました。
○小畑座長 中益委員、よろしいですか。
○中益委員 恐れ入ります。不勉強で恐縮ですが、①④は、最高裁判決の中に書いてある事情でしょうか。
○労災管理課長 具体的に申し上げますと、判決の中で「「労災就学援護費の支給について」と題する労働省労働基準局長通達は、労災就学援護費は法第23条の労働福祉事業として設けられたものであることを明らかにした上」これが①です。
②として、「別添の支給要綱において、労災就学援護費の支給対象者、支給額、支給期間、欠格事由、支給手続等を定めており」としているのが2つ目です。
③として、「所定の要件を具備する者に対し、所定額の労災就学援護費を支給すること、労災就学援護費の支給を受けようとする者は、労災就学等援護費支給申請書を業務災害に係る事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければならず」が3つ目です。
④として、「同署長は、同申請書を受け取ったときは、支給、不支給等を決定し、その旨を申請者に通知しなければならない」といった取扱いをしていることが判示され、それは処分性ありだという判決になったということであり、それと同じようなものについては処分性を認める扱いをしているところです。
○中益委員 ありがとうございます。分かりました。
○大臣官房審議官(労災、賃金担当) すみません。ということで、簡単にいうと、要するに外形上、ほかの行政処分と同じようなプロセスを経ているものを広く行政処分であると解釈し、最高裁判決を踏まえてそのようにしました。
○中益委員 ありがとうございます。承知いたしました。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかに御意見はいかがでしょうか。坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 こちらの後半の論点について発言させてもらいます。まず、論点③に関わるところです。論点③の課題の提示を受けて、改めて特別支給金の給付設計などを眺めてみますと、確かに算定基礎日額については、夏のボーナスや冬のボーナスが典型だという一方で、賃金形態の多様化を受けて、特別給与への該当性が問題となる事案なども、もしかしたらあるかなと。原則的な算定方法によらない場合の取扱いなどもありますけれども、例えば採用間もない、1年もたたない頃に被災した労働者の算定方法とか、直近1年、休業期間がある場合の算定方法とか、その他イレギュラーな報酬支払いがあった場合の算定の問題など、給付設計に関する解説などを見ると、相当紛争を生じさせるような局面が想定し得るのではないかと感じた次第です。
そうすると長期にわたる給付内容に影響する事情・事項に関して、審査請求の機会を保障することは意義のあることです。特別支給金についても、処分性を認めるという方向があり得るのではないかと感じた次第です。
その上で、論点②の審査請求の在り方に関してです。こちらは特別支給金その他を含めてということになりますが、資料の10ページ目の総務省の答申に、ほぼ現れているような話かと思うので、簡単にコメントさせてもらいます。審査請求に要する各種のコストというのは、被災労働者が審査請求しようかどうかというときに、恐らくそれを断念させてしまう重要な要素になり得るだろうと思います。手間が掛かり面倒くさいから、もういいやということにつながってしまいかねない。そういう観点から、やはり審査請求の手続が2本走っている、併存する現状というのは改善が必要ではないかと思いました。保険給付に関する手続に統合するのが妥当ではないかと考えた次第です。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。同時にお手が挙がりましたので、中野委員、お願いいたします。
○中野委員 論点②についてです。保険給付に係る不服と社会復帰促進等事業による給付に係る決定とで、不服申立ての制度が分かれているというのは、国民には分かりにくいものですし、審査の時間及び手続のコストも二重に掛かるので、私も一本化するのが望ましいと考えます。
ただし、1点留意が必要かと思います。労災保険法40条では、保険給付に係る処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する労働者災害補償保険審査官の決定を経た後でなければ提起することができないとして、審査請求前置を定めています。社会復帰促進等事業については現在、行政不服審査法に基づく審査請求が行われているので、特段の審査請求前置は取られていないかと思います。社会復帰促進等事業についても、労災保険法に基づく審査請求に一本化するという場合、その決定に対して直接に取消訴訟を提起することができなくなるという点は、留意が必要かと思いました。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 私も論点②について発言します。課題でお示しいただいた内容は、私には事実上の対応で解決できるように思われます。むしろ中野委員がおっしゃったように、国民に分かりにくいといった理由付けのほうが良いのではと思いました。私は変更の必要性をそれほど感じません。ただ、学問的な話でなくて恐縮ですが、総務省から2度指摘されていることを考えますと、変更を検討したほうがよいのだろうと思います。その上で3点ほど意見あるいは質問があります。
1点目は、総務省の行政不服審査会の答申は、遺族補償年金の不支給決定と労災就学援護費の不支給決定という、限られた場面についての指摘です。労働保険審査会で扱うとした場合に、保険給付とセットになっている場合、すなわち、38条で保険給付に関する決定を行う場合に限定するのか、考えておく必要があると思います。仮に保険給付とセットの場合に限定すると、例えば遺族補償年金の支給決定がなされたが、学校の要件を満たさないために、労災就学援護費については不支給決定を受けたような事案の取扱いが問題になると思います。審査会に審査請求する場面をどのように整理するのかの検討が必要と思います。
2点目は、労働保険審査会の扱う範囲が変わることによって、審査会の位置付けも変わるように思います。現在は保険給付に関する決定を対象としていますが、広げることによる影響、さらに、雇用保険のほうへの影響があるのかも、少し気になります。
最後に、変更した場合には審査官や審査会の業務が増加します。この影響についても考えた上で、検討・対応頂くことが必要と考えます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかはいかがでしょうか。笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 不勉強で恐縮なのですが、質問させていただきたかったのは論点②です。この御説明を見ますと、一本化するということが、先ほど来、皆さんからも議論が出ていますように、自然な流れのように見えて、一本化することがいいのではないかと感じられたのです。他方でこれが論点として議論されるということは、そうしたときに様々な別の問題が生じ得るということなのかと考えておりました。先ほど業務量の問題の話がありました。もしかしてその辺りが論点になって、労働保険審査会の業務の負担のような問題もあるのだろうと私も思ったのです。しかし、それがどれくらい深刻な業務負担の増につながってくるのか、不勉強でピンときておりませんので、可能であれば、事務局のほうで、想定され得る問題をご教示頂けないでしょうか。例えば先ほど中野委員から、不服審査で前置主義のお話がありました。それは私は考えておりませんでしたので、なるほどと勉強になりました。正にそれをここで議論しろということなのかもしれませんけれども、もし一本化することによって生じ得る問題として、事務局の方で既に想定していらっしゃる問題が何かあり得るとすれば、先ほどの事務負担の問題も含め、少し教えていただければと思いました。以上です。
○小畑座長 それでは、御質問なのでお願いいたします。
○労災管理課長 現状において、この社復事業に係る行政不服審査法に基づく審査請求のボリュームは、直近の3年間の平均でいきますと、年間11件程度で、それほど多くの数ではないというのが現状です。ただ御心配いただいているとおり、審査会あるいは審査官に審査をしてもらうということになれば、そのための体制はちゃんと考えていかなければいけないというのは当然です。それ自体、御議論いただこうとは思っておりません。件数としては多くありませんけれども、移管するということであれば、当然必要な体制を準備していくというのは、行政、我々としての課題であるということは考えております。
それから水島先生に最初に御指摘いただいた、移管するとして保険給付とセットの場合だけなのかどうかということです。それ自体、御議論いただければとは思いますが、我々が考えていたのは、全て単独の社復事業の給付、単独の不服申立てであっても審査会等でやるということを想定しておりました。ただ、そこも含めて御議論いただければと思います。以上です。
○小畑座長 笠木委員、いかがでしょうか。
○笠木委員 分かりました。ありがとうございました。
○小畑座長 ほかに御意見はありますか。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 論点③の処分性の部分です。8ページに一覧表があって、処分性があるとされているものに◎が付されております。これを見る限り、かなり広く認めているということが分かります。隣接する雇用保険における事業が、非常に多く支給されています。典型的には雇用調整助成金などがあって、そこでは不正受給があったり、かなりいろいろな問題が出ているのに、その処分性自体、恐らく正面からは認めていないのだろうと思います。若干感想めいたことですが、そういう制度がすぐ近くにある中で、これだけ広く認めているというのは、最高裁も非常に大きな影響を受けると思いました。
その中で特別支給金に◎が付いていないのが、正直よく分からないのです。最高裁で認められた内容に即して、上から順番に◎が付されているところですけれども、特別支給金も本体給付と同じような手続を経て、かつ、本体の給付といわば随伴してくるものであるという内容で、最高裁で認められた就学援護費と、さほど大きな差はないと思うのです。その中で特別支給金に◎が付いていないのは、少し不思議な感じがいたします。
そこで最後の12ページのスライドの論点③を見ますと、固有の不服申立てを認める理由に乏しく、扱ってこなかったという理由が付されております。これは正直、特に処分性を認めない理由にはならないかなと。ここだけ◎にしておかない理由にはならないのではないかということは、少し感じたところです。行政法のマターなのかとは思いますけれども、ほかのものと比較してここだけ◎が付いていないということにすることには、少し違和感があったということだけ申し上げておきたいと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。双方の御意見に対してでもいいと思います。何かありますか。御意見は出そろいましたか。行審・労審の一本化については皆さん同じようにお考えで、一本化について更に促していくべきという結論かと思います。特支金については、実際の機能を重視すべきかということになるかと思います。そのような点を重視して考えていくべきかどうかという点が、ポイントになってくるかと思います。事務局から何かありますか。大丈夫でしょうか。よろしいですか。ありがとうございます。
もし、補足の御意見等がないようでしたら、冒頭の生計維持要件のほうにお話を戻していきたいと思います。最後になりましたけれども、冒頭の生計維持要件については、事務局から御説明を賜りましたので、前回の遺族(補償)等年金の議論に付け加えるべき御意見など、今回御用意いただいた資料を御参照いただきながら、お考えのところを御発言いただければと思います。いかがでしょうか。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益です。資料2に関連して2点発言させていただきます。まず1点目です。労災保険法における生計維持要件は、資料の2ページにもありますように、生計維持者と被生計維持者の依存関係を相互的なものと捉えることからも伺えるように、遺族の労働者に対する経済的依存性と言うよりは、両者の経済的基盤の共通性に着目するものと思われます。したがって、生計同一とその内容が類似しております。
この点に関連して、労働基準法施行規則42条2項で定める配偶者以外の遺族に関して、生計維持と並んで生計同一が挙げられております。これらの遺族については、単に生計同一要件を満たすだけでも遺族補償の対象となることが思い出されます。そうだとすると、労災保険法の生計維持要件が年金確保などとは異なり、労働基準法施行規則と歩調をそろえて、生計同一の意味合いを含んだより広い独自の意義のものと解釈されてきたように思います。そうすると、労災保険法が労働基準法と異なるのは、生計維持要件と言うよりは、年齢や障害の要件によって対象者を制限する点にあると考えられます。これらの要件がなぜ労働基準法から素直に導かれる要件よりも対象を絞るのか、検討されるべきかと思います。
2点目は、この年齢と障害の要件に関連してです。これらの要件との関係では配偶者間の男女格差に関わりますので、資料で示されたような女性の就労状況の改善などが問題になるところです。しかし、このことは当然のことながら、遺族としての女性だけではなく、労働基準法上の労働者としての女性という意味でも、検討されてしかるべきと思います。つまり、女性労働者の業務に起因する死亡にも影響を与えるはずです。このことは単に社会実態に限りません。というのも、労働基準法では女性労働者に関して、一定の危険業務への従事を禁止し、時間外労働や休日労働、深夜業にも制限を掛けてきた経緯があるからです。
労災保険法の遺族補償給付が年金化された当時、危険業務や過重労働から保護されやすかった分、女性労働者の業務上の死亡は、男性よりも相当少なかったと思われます。このことは、こうした女性保護規定が原則として撤廃された今日においても、女性労働者の業務上の死亡数が少ないという前回の研究会で示されたデータからも伺われるところです。つまり、遺族補償年金が導入された当時、労働者が業務上死亡するリスクは、専ら男性労働者を念頭に制度設計されたとも考えられます。したがって、男性労働者死亡のケースが、やはり災害補償のプロトタイプであるところ、男性労働者に配偶者がいる場合には、その配偶者に制約的な要件がほとんど付されずに業務災害のなかでも最も多額の補償を得やすい仕組みであったわけですから、女性労働者の危険業務や過重業務の保護が原則撤廃され、業務上の危険の質が男女同等となった今日では、女性労働者の死亡損害の補償を、むしろ男性労働者の補償の在り方に合わせるべきとの道筋も考えられることを指摘させていただきます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。中野委員、お願いいたします。
○中野委員 今回、行政実務の歴史的な変遷をお調べいただいて、昭和41年当初から、主たる生計維持者が死亡した場合だけでなく、従たる生計維持者と言いますか、その家計において従たる役割を果たしている者が死亡した場合にも、その死亡による被扶養利益の喪失を補償の対象に含めていたことが明らかになったかと思います。平成2年の通知の改正でも、親子や配偶者の間での生計維持関係の認定基準は基本的に変化していません。以上のことから、前回も申し上げたことではありますが、妻を亡くした男性配偶者にも、行政実務が念頭に置く被扶養利益の喪失は認められると思われます。
そして本日頂いた統計資料からは、妻がフルタイムの共働き世帯の数はそれほど増加してはいないけれども、妻がパートタイムとして働く共働き世帯は、大きく増加していることが分かります。このデータから女性の遺族補償年金に対するニーズの変化も読み取ることができると同時に、男性が遺族補償年金に対して有するニーズの変化も読み取ることができると思います。フルタイムだけでなく、パートタイムとして働く妻を亡くした男性にも、妻の死亡による遺族補償年金の支給の必要性が認められるだろうと思います。
また前回、遺族補償年金の支給目的や支給期間について、労働者を亡くした後の生活の激変を一定期間支えるものと考え、有期給付化していくことが望ましいのではないかと申し上げました。その際に中益委員から、損害賠償との関係を考えるべきとの御指摘を受けました。確かに我が国においては、労災補償と損害賠償の併存が認められておりますので、保険給付が縮小することでその不足を補うために、労働者側が裁判で損害賠償請求をしなければならないとなると、労働者や遺族の生活の安定が図られなくなってしまいます。これは私も意図するところではありません。ただ、一方で本日の統計資料を見ると、今日では特に20代の若い世代で男女間の賃金格差がほとんどなくなっています。ですので、将来の世代に向かって、夫を亡くした妻だけが遺族補償年金によって一生の生活の保障を受けるという現在の仕組みを改めていくことは、やはり考え得るのではないかと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。水島委員、お願いします。
○水島委員 生計維持要件の変遷について、大変詳しくお調べいただきまして、勉強になりました。給付縮小につながる生計維持要件の見直しはなかなか難しいと思いますが、会計検査院からの指摘が見直しにつながったと理解しました。外部からの指摘がなければ一切変えなくてもいいのかというと、それはいかがなものかと思います。前回もそのような発言をしましたけれども、50年ぐらい給付を行ってきたものについて、見直し前提ではなく、このままの給付でいいか、現状に見合ったものであるかの検証は必要と思います。
例えば、本日お示しいただいた資料の2ページの昭和41年の通達の2の(2)、「労働者の収入により生計を維持することとなった後まもなく当該労働者が死亡した場合であっても、労働者が生存していたとすれば、特別の事情がない限り、生計維持関係が存続するに至ったであろうことを推定し得るとき」は、婚姻して間もなく配偶者である労働者が亡くなった場合を想定していると思いますが、昭和41年当時の離婚率と今の離婚率を比較したときに、このような考えが当然と言えるのか疑問です。共働き世帯の増加や女性の賃金上昇といった大きな変化もありますので、以前の理由付けや当時の説明が現在も妥当するかについては、可能な範囲で検証をいただければと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。ありませんか。よろしいでしょうか。生計維持要件については前回に引き続き、より深い議論ができているかと思います。いろいろな意味で変化があったことを踏まえ、どうすべきかを更に検討していくことが必要かと思います。何か補足でありませんか。よろしいでしょうか。事務局のほうで何かありませんか。よろしいですか。
ありがとうございます。御意見は以上ということなので、このような御意見を頂戴したところで、事務局のほうでも改めて意見の整理をお願いできればと存じます。それでは事務局から次回の日程について、御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 次回の日程に関しては調整の上、再度御連絡を差し上げたいと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。これにて、「第3回労災保険制度の在り方に関する研究会」を終了いたします。本日はお忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございました。