療法名 | 小児がんに対するシスプラチンを含む多剤併用療法 |
未承認効能・効果を含む医薬品名 | シスプラチン |
未承認用法・ 用量を含む医薬品名 |
シスプラチン |
予定効能・効果 | 小児悪性固形腫瘍(横紋筋肉腫,神経芽腫,肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍,髄芽腫など) |
予定用法・用量 | シスプラチンとして,60ないし100mg/m2を1日間点滴静注,あるいは1日20mg/m2を5日間点滴静注する.なお,投与量および投与日数は,疾患や症状および併用する抗悪性腫瘍剤の投与量などに応じて適宜減量する.特に,1歳未満もしくは体重10kg未満の小児に対して,1回投与量が80mg/m2程度を越えるような場合には3mg/kgとするなど,投与量には十分配慮すること. |
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
臨床試験の試験成績に関する資料 | ||||||||
以下に,本報告書「2.公知の取扱いについて(1)」に記載した論文番号に従って,主要評価論文内容の概略を記載する.なお,毒性情報は記載のある限り引用した.
米国Children's Cancer GroupとPediatric Oncology Groupが共同で,全病期の肝芽腫182例を対象として,本剤90mg/m2/6時間(一歳未満は3mg/kg/6時間)1日,ビンクリスチン1.5mg/m21日,5-FU600mg/m21日の併用療法(レジメンA)と,本剤90mg/m2/6時間(一歳未満は3mg/kg/6時間)1日,塩酸ドキソルビシン20mg/m2/日持続点滴3日間(レジメンB)を3週間以上の間隔で繰り返し投与する無作為化比較試験を行った.ただし,stage Iでfavorable histologyの9例は無作為化比較試験には登録されなかった.無作為割付が行われた症例は173例で,全体の5年無イベント生存率はレジメンAとBで,それぞれ57%と69%(p=.09)と有意差を認めなかった.また,stage IとII,およびstage IIIとIVに分けて比較してみても,レジメンAとBにおいて無イベント生存率には差がなかった.なお,両治療レジメンをあわせて,5年無イベント生存率はstage I-unfavorable histology,stage II,stage III,stage IVで各々91%,100%,64%,25%であった. 一方,好中球減少,血小板減少,貧血,口内炎,心毒性,腎毒性はレジメンBで有意に多かった.本臨床試験には手術が組み込まれているが,手術に関連しない治療関連合併症死はレジメンAで1例に,レジメンBで5例に発生した.死因の内訳は,レジメンAでDICと肺水腫,レジメンBではウイルス感染症2例,敗血症と多臓器不全が1例,心毒性が2例であった. 論文2(Douglass EC, Reynolds M, Finegold M, et al. J Clin Oncol 11:96-99, 1993.) 米国POGからの報告.Favorable histologyを示したstage Iを除く全病期73例を対象とした,多施設共同前方視的単一アーム治療研究.本剤90mg/m21日を1コース施行後,本剤90mg/m2(体重が10kg未満の症例では3mg/kg)1日,ビンクリスチン1.5mg/m21日,5-FU600mg/m21日の併用療法を3週間毎に4コース施行.Stage IとIIでは以後は無治療とし,stage IIIとIVでは同療法を2コース追加,さらに局所放射線照射も併用した.Stage Iのunfavorable histologyとstage IIで5年無イベント生存率は90%,stage IIIで4年無イベント生存率は67%,stage IVの8例中5例は部分寛解となったが無病生存者は1例のみであった. 治療関連毒性は,grade 4の血液毒性が73例中29例に認められ,敗血症が2回観察された.不可逆的な腎毒性は認められなかったが,生存していた45例中3例で,感音性難聴のために補聴器が必要であった.その3例はいずれも6コース以上の本剤投与(総投与量540mg)を受けていた. 論文3(Pritchard J, Brown J, Shafford E, et al. J Clin Oncol 22: 3819-3828, 2000.) ヨーロッパを中心とした大規模多施設共同小児がん治療研究グループであるSIOP(International Society of Pediatric Oncology)からの前方視的単一アーム治療研究の報告.対象は全病期の肝芽腫154例で,施行した化学療法は本剤80mg/m2/24時間持続点滴1日と塩酸ドキソルビシン30mg/m2/24時間持続点滴(1コース合計60mg/m2)2日の併用化学療法(PLADO).両薬剤とも,体重が10kg未満の症例では30kgを1m2として実際の投与量を換算した.本臨床試験における両薬剤の予定総投与量は本剤と塩酸ドキソルビシンが各々480mg/m2,360mg/m2である.手術前後で合計4ないし6コースのPLADOが施行された.その結果,5年無病生存率はstage I,II,III,IVで各々100%,83%,56%,46%であった. 施行された併用化学療法PLADOは合計774コースであったが,化学療法関連死亡は3例であった.そのうち2例は初回化学療法後に敗血症を来したものであったが,いずれも診断時から全身状態が極めて不良であった.残りの1例は乳児例であったが,薬剤投与量を体重換算すべきところを体表面積で算出したため,塩酸ドキソルビシンが過量投与(総量420mg/m2)となり心筋症となったものであった. 論文4(von Schweinitz D, Byrd DJ, Hecker H, et al. Eur J Cancer 33:1243, 1997.) German Society for Paediatric Oncology and Haematologyからの多施設共同前方視的単一アーム治療研究HB89の報告.全病期72例を対象とし,術後化学療法としてイホスファミド3.5g/m2/3日,本剤20mg/m2/日を5日間,塩酸ドキソルビシン30mg/m2/日を2日間の併用療法(IPA)をstage Iには3コース,stage II以上には4コース施行.無病生存率はstage I,II,III,IVで各々100%,50%,71%,29%であった. 本剤を含む併用化学療法IPAによる毒性としては,血液毒性を主としてgrade III/IVが全242コース中14%に発生した.毒性死は2例で,いずれも初回化学療法中であった.1例は2生月の乳児で巨大な腫瘍があり初回化学療法中に肝不全となった.他の1例は4歳で主門脈に腫瘍が浸潤しており,化学療法中に食道静脈瘤破裂を来した. 論文5(Fuchs J, Rydzynski J, von Schweinitz D, et al. Cancer 95: 172-182, 2002.) ドイツからの前方視的多施設共同単一アーム治療研究HB94の報告.全病期69例が対象.治療スケジュールは病期と初期化学寮法に対する反応性により異なるが,本剤20mg/m2/日を5日間,イホスファミド3.5g/m2/3日,塩酸ドキソルビシン30mg/m2/日を2日間の併用療法(CDDP/IFO/DOXO)と,カルボプラチン200mg/m2/日を4日間,エトポシド100mg/m2/日を4日間とから成る2つの併用化学療法を施行した.但し1歳未満の乳児例においては,1m2を30kgとして体重換算で薬剤投与量を決定した.その結果,無病生存率はstage I,II,III,IVで各々89%,100%,68%,21%であった. CDDP/IFO/DOXOは68例に185コース施行されたが,血液毒性を主としてgrade 3,4の毒性を39例に認め,2例が重度の骨髄無形成による敗血症により死亡した. 論文6(Katzenstein HM, Krailo MD, Malogolowkin MH, et al. J Clin Oncol 20; 2789-2797, 2002.) 米国Children's Cancer GroupとPediatric Oncology Groupが共同で,全病期の肝細胞癌46例を対象として,本剤90mg/m2/6時間(一歳未満は3mg/kg/6時間)1日,ビンクリスチン1.5mg/m21日,5-FU600mg/m21日の併用療法(レジメンA)と,本剤90mg/m2/6時間(一歳未満は3mg/kg/6時間)1日,塩酸ドキソルビシン20mg/m2/日持続点滴3日間(レジメンB)を3週間以上の間隔で繰り返し投与する無作為化比較試験を行った.対象症例の病期はstage I,III,IVが各々8,25,13例であった.その結果,5年無イベント生存率はstage I,III,IVで各々88%,8%,0%であった.各レジメンで治療成績に統計学的な有意差はなかった. 化学療法による毒性としては,好中球減少,血小板減少,口内炎がレジメンBで有意に多かった.治療関連死亡はレジメンBで1例認められたが,原因は緑膿菌による敗血症であった. 論文7(Sasaki F, Matsunaga T, Iwafuchi M, et al. J Pediatr Surg 37: 851-856, 2002.) 本邦からの臨床試験結果報告.対象は全145例の肝原発悪性腫瘍の小児例.そのうち134例で解析が行われた.化学療法レジメンは,stage I/IIは本剤40mg/m2と塩酸ピラルビシン30mg/m2を1日(91Aレジメン),stage III/IVは本剤80mg/m2を1日と塩酸ピラルビシン30mg/m2を2日(91Bレジメン)で,いずれのレジメンも全6コース施行された.その結果,3年無イベント生存率はstage I,II,IIIA,IIIB,IVで各々88.9%,84.2%,67.5%,47.1%,40.6%と良好であった. 治療関連死亡は7例に認められ,そのうち6例は白血球減少に起因する敗血症が,1例は肝不全が死因であった.
114人の治療抵抗性の小児固形腫瘍患者に対し,本剤の投与を行った.横紋筋肉腫3例を含む18例で反応を認めた. 論文9(Crist W, Gehan EA, Ragab AH, et al. J Clin Oncol 1995; 13: 610-630.) 米国IRS(Intergroup Rhabdomyosarcoma Study)からの多施設共同治療研究報告.Group III/IVにおいてVAC(ビンクリスチン2mg/m2を1日,アクチノマイシンD0.015mg/kgを5日間,シクロホスファミド10mg/kgを3日間;レジメン34,87例),VAC+塩酸ドキソルビシン(30mg/m2を2日間)+本剤(90mg/m2を1日)(レジメン35,178例),VAC+塩酸ドキソルビシン+本剤+エトポシド(100mg/m2を3日間)(レジメン36,174例)の3群での無作為割付比較試験を行った.Group IIIでは5年無増悪生存率がそれぞれ70%,62%,56%,全生存率がそれぞれ70%,63%,64%であり,Group IVでは5年無増悪生存率がそれぞれ27%,27%,30%,全生存率がそれぞれ27%,31%,29%であった.いずれもVAC単独と比較して優位性は認めなかった. また,Group I/II胞巣型に対してpulsed VAdrC-VAC(ビンクリスチン2mg/m2を1日,塩酸ドキソルビシン30mg/m2を2日間,シクロホスファミド10mg/kgを3日間)+本剤(90mg/m2を1日)+放射線療法の治療(レジメン38)を行い(99例),IRS-IIでのVAまたはVAC+放射線療法(89例)と比較し,それぞれ5年全生存率80%、71%(p=0.01),5年無増悪生存率71%,59%(p=0.02)と塩酸ドキソルビシンと本剤を追加する方が有意に優れていた. 重症もしくは生命を脅かす毒性を示した症例,あるいは死の転帰をとった症例の合計は,レジメン34,35,36,38で各々91,97,96,93%に上った.実際の毒性死症例数は,レジメン34,35,36,38で各々,87例中4例,178例中13例,174例中7例,99例中1例であった. 論文10(Flamant F, Rodary C, Rey A, et al. Eur J Cancer 34: 1050-1062, 1998) ヨーロッパの多施設共同治療研究グループであるSIOP(International Society of Pediatric Oncology)からの治療研究報告.IVA(イホスファミド3g/m2を2日間,ビンクリスチン1.5mg/m2を1日,アクチノマイシンD1.5mg/m2を1日)療法後の反応不良例に対して,DP療法(塩酸ドキソルビシン60mg/m2を1日,本剤100mg/m2を1日)を施行した.同研究グループの過去の臨床試験であるRMS75と比較すると,5年無イベント生存率は47%から,53%へと向上した. 骨髄抑制が化学療法の半分のコースで認められたが,培養陽性の感染症は全186例中26例(14%)に認められた.毒性死は2例(1%)に発生し,その死因は1例が敗血症,1例が塩酸ドキソルビシンによる心毒性であった.
The German Society of Pediatric Hematology and Oncology(GPOH)からの多施設共同無作為化比較試験の報告.対象症例数は184例.手術後に,イホスファミド(3g/m2を5日間),エトポシド(150mg/m2を3日間),メトトレキサート(5g/m2を1日),本剤(40mg/m2を3日間),シタラビン(400mg/m2を3日間)を1ないし2コース施行し放射線療法を行う群(arm I)と,手術および放射線療法後に,ロムスチン(75mg/m2),ビンクリスチン(1.5mg/m2),本剤(70mg/m2)を42日ごとに8コース行う群(arm II)とに無作為割付が行われた.その結果,頭蓋内転移ないし脊髄転移が無かった症例に限定すると,3年無再発生存率はarm Iとarm IIとで各々65%,78%と有意差(p<.03)をもってarm IIが優れていた. 治療関連死亡は両群あわせて2例に発生した.1例はarm Iで敗血症により,1例はarm IIで重症の白質脳症により死亡した.後者はプロトコールに反して放射線療法後にメトトレキサートの髄腔内投与が行われていた.Grade III/IVの感染症はarm IとIIで各々22%,18%であった.Grade III/IVの聴力障害はarm IとIIで各々2%,9%であった.骨髄抑制,感染症,聴力障害が原因で化学療法を中止しなければならなかった症例が,arm IとIIで各々3%,10%に認められた.また,化学療法剤の減量を要した症例が,arm IとIIで各々11%,63%であった. 論文12(Packer RJ, Goldwein J, Nicholson HS, et al. J Clin Oncol 17: 2127-2136, 1999.) 米国CCGからの報告.対象は播種の無い髄芽腫71例で,治療終了後の放射線治療による神経学的後遺症を軽減する目的で,照射線量を減量しビンクリスチン(1.5mg/m2,毎週1回),ロムスチン(75mg/m2を1日,6週毎),本剤(75mg/m2を1日,6週毎)から成る化学療法を併用した前方視的単一アーム研究.化学療法は8コースが予定された.その結果,評価可能症例は65例で,3年および5年無増悪生存率は各々86%,79%と過去の治療成績と同等であり,化学療法の有効性が確認された. 一方,聴力障害が32%,腎障害が17%に発生した.敗血症を含む感染症が6例(9%)に発生したが,施行された全化学療法数464コースのうち7コース(1.5%)であった.毒性死亡は1例に発生したが,肺炎と敗血症によるものであった. 論文13(Packer RJ, Sutton LN, Elterman R, et al. J Neurosurg 81: 690-698, 1994.) 進行期を含んだ63例に対して,従来からの放射線療法に加えて,本剤,ロムスチン,ビンクリスチンの併用化学療法を施行した.その結果診断時転移を有する症例と限局例における5年無増悪生存率は各々,67%,90%と良好であった.
米国Children's Cancer Groupが施行した無作為割付比較試験の報告.Stage IV神経芽腫小児189例に対して寛解導入化学療法(初期化学療法)として,エトポシド(100mg/m22日間)とドキソルビシン(30mg/m21日),本剤(60mg/m21日),およびシクロホスファミド(1000mg/m22日間)の併用療法を28日毎に5サイクル行い,その後の地固め療法として骨髄破壊的大量化学療法+自家移植群と非移植群に分かれる無作為割付が行われた.移植群の前処置は,エトポシド(640mg/m2)とメルファラン(140mg/m2),カルボプラチン(1000mg/m2)を併用し,非移植群はエトポシド(500mg/m2/4日間)と本剤(160mg/m2/4日間),ドキソルビシン(40mg/m2/4日間),イホスファミド(2.5g/m24日間)を併用する化学療法を3サイクル施行する.本剤は両群で寛解導入化学療法に使用され,また骨髄破壊的大量化学療法と無作為割付後の地固め化学療法における化学療法群で使用されている.造血幹細胞移植併用大量化学療法群で3年無病生存率34%,化学療法群で22%(p=.034)であった. 治療関連毒性としては,初期化学療法中に敗血症が17例に認められた.地固め療法として化学療法を施行された群では,治療中に重篤な感染症および敗血症が各々52%,28%に認められた.NCI-CTC,grade 3/4の腎障害が化学療法群の8%に認められた.大量化学療法群では18%であった.治療関連死亡は化学療法群では3%であった. 論文15(Matthay KK, Perez C, Seeger RC, et al. J Clin Oncol 16: 1256-1264, 1998.) 米国Children's Cancer Groupが施行した試験の報告.Stage IIIの1歳以上の神経芽腫小児228例が対象.寛解導入化学療法としてエトポシド(100mg/m24日間)とドキソルビシン(30mg/m21日),本剤(60mg/m21日),シクロホスファミド(900mg/m22日間)の併用療法(CCG-3881研究ならびにCCG-3891研究)が行われた.寛解導入療法後にCCG-3881研究,CCG-3891研究ともに骨髄破壊的移植前処置にエトポシド(160mg/m24日間)とカルボプラチン(250mg/m24日間),全身放射線照射10Gyを使用して地固め療法を行った.Favorable biology群で,4年無イベント生存率(EFS)は100%と良好であり,unfavorable biology群でも54%と良好な成績であった. 治療関連死亡は4例認められた.但し,4例中2例は原疾患増悪後に発生した. 論文19(Frappaz D, Michon J, Coze C, et al. J Clin Oncol 18: 468-476, 2000.) Stage IVの神経芽腫小児99例にエトポシド(100mg/m24日間)とドキソルビシン(60mg/m21日),シクロホスファミド(300mg/m25日間),ビンクリスチン(1.5mg/m21日),本剤(90mg/m21日)の併用療法が行われた.地固め療法として骨髄破壊的大量化学療法と自家造血幹細胞移植が行われた.大量化学療法としてはビンクリスチン(1.5mg/m2),メルファラン(180mg/m2),全身照射12Gyまたはカルボプラチン(1750mg/m2),メルファラン(180mg/m2)を施行した結果,評価可能72例における7年の無増悪生存率は29%であった. 論文22(Kaneko M, Tsuchida Y, Mugishima H, et al. J Pediatr Hematol Oncol 24: 613-621, 2002.) Stage IVの神経芽腫日本人小児301例に対して,エトポシド(100mg/m25日間)とシクロホスファミド(1200mg/m22日間),ピラルビシン(40mg/m21日),本剤(25mg/m25日間)の併用療法(A3療法),またはエトポシド(100mg/m25日間)とシクロホスファミド(1200mg/m21日),ピラルビシン(40mg/m21日),本剤(90mg/m21日)の併用療法(New A1療法),あるいはシクロホスファミド(1200mg/m21日),ビンクリスチン(1.5mg/m21日),ピラルビシン(40mg/m21日),本剤(90mg/m21日)の併用療法(A1療法)が行なわれた.1985-1991年のA1療法による併用療法ではMYCN増幅例の5年無再発生存率は23.2%,MYCN非増幅例では33.3%であり,1991-1999年のA3療法による併用療法では、MYCN増幅例の5年無再発生存率は36.0%,またNew A1療法による併用療法では,5年無再発生存率は32.2%であった. 治療関連死亡はA3療法で88例中4例,New A1療法133例中1例であった. |
他剤、他の組み合わせとの比較等について | ||||||||||||||||||||||||||||||
本邦における精度の高い全国レベルの小児がん統計は存在しないが,小児がん患者のほとんどは小児慢性特定疾患治療研究事業に登録されていると推定されるため,同研究事業の統計から疫学データの概略を知ることができる.同研究事業の統計データ概略は国立成育医療センターのインターネットホームページ(http://www.nch.go.jp/policy/shoumann.htm)でアクセス可能で,その中から平成12年度における小児悪性腫瘍新規診断症例を抽出すると,下表の通りである. 平成12年度小児慢性特定疾患治療研究事業における新規診断小児がんの登録人数
この表に抽出した各疾患は,ICCC(International Classification of Childhood Cancer)によれば,さらに急性リンパ性白血病,急性非リンパ性白血病,上衣種,星細胞種,PNET,神経膠種,その他の頭蓋内脊髄内腫瘍,神経芽種,神経節芽種,その他の交感神経系腫瘍,ホジキンリンパ腫,非ホジキンリンパ腫,バーキットリンパ腫,その他のリンパ網内系腫瘍,網膜芽細胞種,骨肉腫,Ewing肉腫,横紋筋肉腫,ウイルムス腫瘍,肝芽腫,胚細胞種,性腺癌などに細分化される.さらに,厚生労働省統計表データベスシステム(http://www.dbtk.mhlw.go.jp/toukei/youran/indexk_1_1.html)を閲覧すると,本邦における15歳未満の人口総数は約1800万人,上表に対応すると思われる18歳未満は約2530万人であり,小児がん全体の頻度はもとより各種小児がんは稀少疾患であることが明らかである. 現時点で小児悪性固形腫瘍に対して保険上の承認が得られている薬剤はごく限られており,科学的に考えて現行の承認薬剤のみを用いた治療で,患者が当然期待する治療成績を得ることは不可能といえるであろう. このような背景において本剤は,ほとんど全ての小児悪性固形腫瘍に対する第一ないし第二選択の併用療法に含まれる重要な薬剤であり,小児悪性固形腫瘍に対して早急な適応取得が望まれる薬剤の一つである.対象疾患に応じて用法・用量や併用抗がん剤に多少の違いがあることは当然であるが,本報告書1.の予定用法・用量に示した方法を用いることによって,本剤を必要とする全ての小児悪性固形腫瘍に対応可能と考えられる. 小児悪性固形腫瘍において,科学的に議論しうるデータが収集可能な4疾患について文献収集を行い,本剤を用いた併用療法の科学的妥当性を示すデータを上記2.および3.に紹介したが,何れの疾患も無作為比較試験を含む複数の臨床試験によって本剤の有効性ならびに安全性が示されている.また,小児期に発生する悪性固形腫瘍であっても,骨肉腫や睾丸腫瘍,頭頸部癌など成人にも発生する,ないし成人期に多く認められる腫瘍は,本報告書作成時点でも保険適応が得られている.一方,髄芽腫においても前向き第II相試験が示す高い有効性のデータから,選択すべき治療薬剤のひとつである事は疑いない. 横紋筋肉腫以外の小児悪性固形腫瘍においては,国,研究グループ,施設によって,独自レジメンを使用されている事が多いので,標準治療法として一義に決定する事が困難であるが,安全性担保の観点から,上記1.に示した用法・用量の本剤,ならびにがん化学療法を熟知し十分経験を積んだ小児腫瘍診療を専門とする医師が妥当であると考える併用薬剤の用量設定において使用するべきであると考えられる.横紋筋肉腫においては,標準治療であるVAC(ビンクリスチン・アクチノマイシンD・シクロホスファミド)療法に対する本剤を含む治療レジメンの優越性は証明されなかったものの非劣性は証明されており,進行期および胞巣型の組織型を示す症例に対しては依然利益があるものと考えられるため,標準治療が無効な一群や重篤な有害事象を来したために標準治療が継続困難な症例では,積極的に使用されるべき薬剤であると考えられる. これらの事実は教科書および総説の記述でも確認され,また米国国立がん研究所(NCI)のホームページにも紹介されている内容と矛盾しないものであり,本剤が小児悪性固形腫瘍治療の第一ないし第二選択薬剤である事は医学薬学上公知であると考えられる。 以下に,本剤を含む併用化学療法の位置付けを各疾患群別に記載する. 肝芽腫その他肝悪性腫瘍 本報告書の「3.裏付けとなるデータについて」に記載した公表論文にあるように,欧州と米国,さらに本邦においても,本疾患に対する化学療法剤としては本剤が第一選択となる中心的治療薬剤となっており,「2項(2)教科書」のAや「2項(3)peer-review journalに記載された総説,メタアナリシス」のAに記載したように,塩酸ドキソルビシンとともに本剤は肝芽腫に対する化学療法剤として必要不可欠であることは明白と判断できる. 一方,肝芽腫以外の肝悪性腫瘍としては成人型の肝細胞癌が小児にも発生することがあるが,極めて希少であるために,論文6程度の症例数を集めた臨床試験が認められるだけに過ぎないものの,非進行期の症例では明らかな有効性が認められ,さらに米国国立がん研究所のホームページであるChildhood Liver Cancer (Physician Data Query ![]() 横紋筋肉腫 本疾患に対する確立された標準治療法としては,ビンクリスチン・アクチノマイシンD・シクロホスファミドの3剤を併用するVAC療法である.しかし.診断時に遠隔転移を有する症例や原発巣を全的できない症例ではVAC療法をもってしても治療成績の向上が得られないため,新規治療法の開発が必要とされてきた.本報告書の「2項(2)教科書」のBや「2項(3)peer-review journalに記載された総説,メタアナリシス」のBに記載したように,米国の大規模前方視的臨床試験であるIRS(Intergroup Rhabdomyosarcoma Study)-IIIにおいて本剤とエトポシドの併用は完全寛解率と無増悪生存率を改善しなかったものの,初期化学寮法において両薬剤を初期化学寮法に含めるべきか否かについては,その後の臨床研究では明らかにされることがなかった,と記載されているし,group IとIIの胞巣型横紋筋肉腫では,VAC療法に塩酸ドキソルビシンと本剤を加えることで生存率が改善したこと,同様の治療を行った場合,膀胱原発のgroup III症例では最終的に膀胱を温存できる割合が2倍となることが記載されており,本薬剤は本疾患の治療薬剤として必要性が高いと考えられる. 髄芽腫 本疾患に対する治療としては,手術ならびに高用量の放射線照射であるが,放射線療法により治療終了後の神経学的後遺症が問題となるため,化学療法を治療に組み込み照射量を減量する臨床試験が施行されつつある.このような背景において,本疾患における標準的化学療法は未確立であるが,本報告書の「2項(2)教科書」のCに記載したように,本剤は髄芽腫に対して抗腫瘍活性を持つうえ,「2項(3)peer-review journalに記載された総説,メタアナリシス」のCに記載したとおり,本剤を含む化学療法レジメンが複数施行され良好な治療成績を示しており,本剤は髄芽腫の治療薬剤として必要であると考えられる. 神経芽腫 Stage IIIまたはIVの神経芽腫に対する標準的化学療法レジメンは確立されているとは言いがたいものの,本報告書「2項(3)peer-review journalに記載された総説,メタアナリシス」のDや,同じく「2項(4)学会又は組織・機構の診療ガイドライン」に記載したとおり国内外を問わず塩酸ドキソルビシン,本剤またはカルボプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,イホスファミド,ビンクリスチン等の薬剤の一部または全てを組み合わせた併用療法を行うことは,治療の標準と言える.従って,神経芽腫に対し本剤は第一選択薬の一つと言えよう.本報告書作成時点では,神経芽腫に対する本剤の適応取得用法用量は20mg/m2を1日1回,5日間連続投与となっているが,種々の併用薬剤との組み合わせや投与量,投与スケジュールは本報告書「3.裏付けとなるデータについて」に記載した如く,国や施行した臨床試験により様々であり,現行の用法用量は変更されてよいと考える. |
公表論文等 | ||||||||||||||||
医学中央雑誌刊行会(http://login.jamas.or.jp/enter.html)において,各診断名とシスプラチンをキーワードとして検索し,明らかに本剤を投与したと考えられる,ないし本剤投与症例が含まれると考えられた報告を抽出した. 無作為比較試験は無く,横紋筋肉腫と髄芽腫では施設のデータを集めた観察研究や1施設のケースシリーズ,症例報告のみであるが,本剤の我が国における日常的使用状況が反映されていると判断可能である. 肝芽腫
|
本剤を併用療法で使用する場合には骨髄抑制やその他の副作用が増強される可能性があるが,G-CSF製剤投与や輸血などの支持療法を積極的に行うことで対処が可能である.しかしながら,そのような対処を行っても重篤な出血や,本報告書「3.裏付けとなるデータについて,臨床試験の試験成績に関する資料」に記載した如く,敗血症をはじめとした重症感染症などを合併する危険が回避出来ない場合のみならず,合併症死に至る症例が少数ながら存在するため,専門家の慎重な観察が必要である. さらに,本剤は現在の添付文書に記載があるように,腎障害と聴力障害を来しうるため,使用においては,がん化学療法に十分な知識と経験を有する医師(小児科医)が慎重に使用する,もしくはそのような医師の監督下において使用されるべきであると考える. 本報告書「3.裏付けとなるデータについて」の項,「臨床試験の試験成績に関する資料」に参考文献において報告されている重篤な毒性情報を併記しているが,以下にまとめて再掲する.
米国Children's Cancer GroupとPediatric Oncology Groupが共同で,全病期の肝芽腫182例を対象として,本剤90mg/m2/6時間(一歳未満は3mg/kg/6時間)1日,ビンクリスチン1.5mg/m21日,5-FU600mg/m21日の併用療法(レジメンA)と,本剤90mg/m2/6時間(一歳未満は3mg/kg/6時間)1日,塩酸ドキソルビシン20mg/m2/日持続点滴3日間(レジメンB)を3週間以上の間隔で繰り返し投与する無作為化比較試験を行った.本臨床試験には手術が組み込まれているが,手術に関連しない治療関連合併症死はレジメンAで1例に,レジメンBで5例に発生した.死因の内訳は,レジメンAでDICと肺水腫,レジメンBではウイルス感染症2例,敗血症と多臓器不全が1例,心毒性が2例であった. 論文2(Douglass EC, Reynolds M, Finegold M, et al. J Clin Oncol 11:96-99, 1993.) 米国POGからの報告.Favorable histologyを示したstage Iを除く全病期73例を対象とした,多施設共同前方視的単一アーム治療研究.本剤90mg/m21日を1コース施行後,本剤90mg/m2(体重が10kg未満の症例では3mg/kg)1日,ビンクリスチン1.5mg/m21日,5-FU600mg/m21日の併用療法を3週間毎に4コース施行.Stage IとIIでは以後は無治療とし,stage IIIとIVでは同療法を2コース追加,さらに局所放射線照射も併用した.治療関連毒性は,grade 4の血液毒性が73例中29例に認められ,敗血症が2回観察された.不可逆的な腎毒性は認められなかったが,生存していた45例中3例で,感音性難聴のために補聴器が必要であった.その3例はいずれも6コース以上の本剤投与(総投与量540mg/m2)を受けていた. 論文3(Pritchard J, Brown J, Shafford E, et al. J Clin Oncol 22: 3819-3828, 2000.) ヨーロッパを中心とした大規模多施設共同小児がん治療研究グループであるSIOP(International Society of Pediatric Oncology)からの前方視的単一アーム治療研究の報告.対象は全病期の肝芽腫154例で,施行した化学療法は本剤80mg/m2/24時間持続点滴1日と塩酸ドキソルビシン30mg/m2/24時間持続点滴(1コース合計60mg/m2)2日の併用化学療法(PLADO).両薬剤とも,体重が10kg未満の症例では30kgを1m2として実際の投与量を換算した.本臨床試験における両薬剤の予定総投与量は本剤と塩酸ドキソルビシンが各々480mg/m2,360mg/m2である.施行された併用化学療法PLADOは合計774コースであったが,化学療法関連死亡は3例であった.そのうち2例は初回化学療法後に敗血症を来したものであったが,いずれも診断時から全身状態が極めて不良であった.残りの1例は乳児例であったが,薬剤投与量を体重換算すべきところを体表面積で算出したため,塩酸ドキソルビシンが過量投与(総量420mg/m2)となり心筋症となったものであった. 論文4(von Schweinitz D, Byrd DJ, Hecker H, et al. Eur J Cancer 33:1243, 1997.) German Society for Paediatric Oncology and Haematologyからの多施設共同前方視的単一アーム治療研究HB89の報告.全病期72例を対象とし,術後化学療法としてイホスファミド3.5g/m2/3日,本剤20mg/m2/日を5日間,塩酸ドキソルビシン30mg/m2/日を2日間の併用療法(IPA)をstage Iには3コース,stage II以上には4コース施行.本剤を含む併用化学療法IPAによる毒性としては,血液毒性を主としてgrade III/IVが全242コース中14%に発生した.毒性死は2例で,いずれも初回化学療法中であった.1例は2生月の乳児で巨大な腫瘍があり初回化学療法中に肝不全となった.他の1例は4歳で主門脈に腫瘍が浸潤しており,化学療法中に食道静脈瘤破裂を来した. 論文5(Fuchs J, Rydzynski J, von Schweinitz D, et al. Cancer 95: 172-182, 2002.) ドイツからの前方視的多施設共同単一アーム治療研究HB94の報告.全病期69例が対象.治療スケジュールは病期と初期化学寮法に対する反応性により異なるが,本剤20mg/m2/日を5日間,イホスファミド3.5g/m2/3日,塩酸ドキソルビシン30mg/m2/日を2日間の併用療法(CDDP/IFO/DOXO)と,カルボプラチン200mg/m2/日を4日間,エトポシド100mg/m2/日を4日間とから成る2つの併用化学療法を施行した.但し1歳未満の乳児例においては,1m2を30kgとして体重換算で薬剤投与量を決定した.その結果CDDP/IFO/DOXOは68例に185コース施行されたが,血液毒性を主としてgrade 3,4の毒性を39例に認め,2例が重度の骨髄無形成による敗血症により死亡した. 論文6(Katzenstein HM, Krailo MD, Malogolowkin MH, et al. J Clin Oncol 20; 2789-2797, 2002.) 米国Children's Cancer GroupとPediatric Oncology Groupが共同で,全病期の肝細胞癌46例を対象として,本剤90mg/m2/6時間(一歳未満は3mg/kg/6時間)1日,ビンクリスチン1.5mg/m21日,5-FU600mg/m21日の併用療法(レジメンA)と,本剤90mg/m2/6時間(一歳未満は3mg/kg/6時間)1日,塩酸ドキソルビシン20mg/m2/日持続点滴3日間(レジメンB)を3週間以上の間隔で繰り返し投与する無作為化比較試験を行った.治療関連死亡はレジメンBで1例認められたが,原因は緑膿菌による敗血症であった. 論文7(Sasaki F, Matsunaga T, Iwafuchi M, et al. J Pediatr Surg 37: 851-856, 2002.) 本邦からの臨床試験結果報告.対象は全145例の肝原発悪性腫瘍の小児例.そのうち134例で解析が行われた.化学療法レジメンは,stage I/IIは本剤40mg/m2と塩酸ピラルビシン30mg/m2を1日(91Aレジメン),stage III/IVは本剤80mg/m2を1日と塩酸ピラルビシン30mg/m2を2日(91Bレジメン)で,いずれのレジメンも全6コース施行された.その結果治療関連死亡は7例に認められ,そのうち6例は白血球減少に起因する敗血症が,1例は肝不全が死因であった.
米国IRS(Intergroup Rhabdomyosarcoma Study)からの多施設共同治療研究報告.Group III/IVにおいてVAC(ビンクリスチン2mg/m2を1日,アクチノマイシンD0.015mg/kgを5日間,シクロホスファミド10mg/kgを3日間;レジメン34,87例),VAC+塩酸ドキソルビシン(30mg/m2を2日間)+本剤(90mg/m2を1日)(レジメン35,178例),VAC+塩酸ドキソルビシン+本剤+エトポシド(100mg/m2を3日間)(レジメン36,174例)の3群での無作為割付比較試験を行った.また,Group I/II胞巣型に対してpulsed VAdrC-VAC(ビンクリスチン2mg/m2を1日,塩酸ドキソルビシン30mg/m2を2日間,シクロホスファミド10mg/kgを3日間)+本剤(90mg/m2を1日)+放射線療法の治療(レジメン38)を行(99例)った. 重症もしくは生命を脅かす毒性を示した症例,あるいは死の転帰をとった症例の合計は,レジメン34,35,36,38で各々91,97,96,93%に上った.実際の毒性死症例数は,レジメン34,35,36,38で各々,87例中4例,178例中13例,174例中7例,99例中1例であった. 論文10(Flamant F, Rodary C, Rey A, et al. Eur J Cancer 34: 1050-1062, 1998) ヨーロッパの多施設共同治療研究グループであるSIOP(International Society of Pediatric Oncology)からの治療研究報告.IVA(イホスファミド3g/m2を2日間,ビンクリスチン1.5mg/m2を1日,アクチノマイシンD1.5mg/m2を1日)療法後の反応不良例に対して,DP療法(塩酸ドキソルビシン60mg/m2を一日,本剤100mg/m2を1日)を施行した.骨髄抑制が化学療法の半分のコースで認められたが,培養陽性の感染症は全186例中26例(14%)に認められた.毒性死は2例(1%)に発生し,その死因は1例が敗血症,1例が塩酸ドキソルビシンによる心毒性であった. C. 髄芽腫 論文11(Kortmann RD, Kuhl J, Timmermann B, et al. Int J Rad Oncol 46: 269-279, 2000.) The German Society of Pediatric Hematology and Oncology(GPOH)からの多施設共同無作為化比較試験の報告.対象症例数は184例.手術後に,イホスファミド(3g/m2を5日間),エトポシド(150mg/m2を3日間),メトトレキサート(5g/m2を1日),本剤(40mg/m2を3日間),シタラビン(400mg/m2を3日間)を1ないし2コース施行し放射線療法を行う群(arm I)と,手術および放射線療法後に,ロムスチン(75mg/m2),ビンクリスチン(1.5mg/m2),本剤(70mg/m2)を42日ごとに8コース行う群(arm II)とに無作為割付が行われた.治療関連死亡は両群あわせて2例に発生した.1例はarm Iで敗血症により,1例はarm IIで重症の白質脳症により死亡した.後者はプロトコールに反して放射線療法後にメトトレキサートの髄腔内投与が行われていた.Grade III/IVの感染症はarm IとIIで各々22%,18%であった.Grade III/IVの聴力障害はarm IとIIで各々2%,9%であった.骨髄抑制,感染症,聴力障害が原因で化学療法を中止しなければならなかった症例が,arm IとIIで各々3%,10%に認められた.また,化学療法剤の減量を要した症例が,arm IとIIで各々11%,63%であった. 論文12(Packer RJ, Goldwein J, Nicholson HS, et al. J Clin Oncol 17: 2127-2136, 1999.) 米国CCGからの報告.対象は播種の無い髄芽腫71例で,治療終了後の放射線治療による神経学的後遺症を軽減する目的で,照射線量を減量しビンクリスチン(1.5mg/m2,毎週1回),ロムスチン(75mg/m2を1日,6週毎),本剤(75mg/m2を1日,6週毎)から成る化学療法を併用した前方視的単一アーム研究.化学療法は8コースが予定されたが,評価可能症例は65例であった.聴力障害が32%,腎障害が17%に発生した.敗血症を含む感染症が6例(9%)に発生したが,施行された全化学療法数464コースのうち7コース(1.5%)であった.毒性死亡は1例に発生したが,肺炎と敗血症によるものであった.
米国Children's Cancer Groupが施行した無作為割付比較試験の報告.Stage IV神経芽腫小児189例に対して寛解導入化学療法(初期化学療法)として,エトポシド(100mg/m22日間)とドキソルビシン(30mg/m21日),本剤(60mg/m21日),およびシクロホスファミド(1000mg/m22日間)の併用療法を28日毎に5サイクル行い,その後の地固め療法として骨髄破壊的大量化学療法+自家移植群と非移植群に分かれる無作為割付が行われた.移植群の前処置は,エトポシド(640mg/m2)とメルファラン(140mg/m2),カルボプラチン(1000mg/m2)を併用し,非移植群はエトポシド(500mg/m2/4日間)と本剤(160mg/m2/4日間),ドキソルビシン(40mg/m2/4日間),イホスファミド(2.5g/m23日間)を併用する化学療法を3サイクル施行する.治療関連毒性としては,初期化学療法中に敗血症が17例に認められた.非移植群では,治療中に重篤な感染症および敗血症が各々52%,28%に認められた.NCI-CTC,grade 3/4の腎障害が化学療法群の8%に認められた.大量化学療法群では18%であった.治療関連死亡は化学療法群では3%であった. 論文15(Matthay KK, Peres C, Seeger RC, et al. J Clin Oncol 16: 1256-1264, 1998.) 米国Children's Cancer Groupが施行した試験の報告.Stage IIIの1歳以上の神経芽腫小児228例が対象.寛解導入化学療法としてエトポシド(125mg/m24日間)とイホスファミド(2.5g/m24日間),ドキソルビシン(10mg/m23日間),本剤(40mg/m24日間)の併用化学療法(CCG-3891研究)あるいはエトポシド(100mg/m22日間)とドキソルビシン(30mg/m21日),本剤(60mg/m21日),シクロホスファミド(900mg/m22日間)の併用療法(CCG-3881研究)が行われた.寛解導入療法後にCCG-3881研究,CCG-3891研究ともに骨髄破壊的移植前処置にエトポシド(160mg/m24日間)とカルボプラチン(250mg/m24日間),全身放射線照射10Gyを使用して地固め療法を行った.治療関連死亡は4例認められた.但し,4例中2例は原疾患増悪後に発生した. 論文22(Kaneko M, Tsuchida Y, Mugishima H, et al. J Pediatr Hematol Oncol 24: 613-621, 2002.) Stage IVの神経芽腫日本人小児に対して,エトポシド(100mg/m25日間)とシクロホスファミド(1200mg/m22日間),ピラルビシン(40mg/m21日),本剤(25mg/m25日間)の併用療法(A3療法),またはエトポシド(100mg/m25日間)とシクロホスファミド(1200mg/m21日),ピラルビシン(40mg/m21日),本剤(90mg/m21日)の併用療法(New A1療法),あるいはシクロホスファミド(1200mg/m21日),ビンクリスチン(1.5mg/m21日),ピラルビシン(40mg/m21日),本剤(90mg/m21日)の併用療法(A1療法)が行なわれた.治療関連死亡はA3療法で88例中4例,New A1療法133例中1例であった. |
肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍,横紋筋肉腫,髄芽腫,神経芽腫などの小児悪性固形腫瘍に対する本剤を含む併用化学療法に関して,これまでに公表された臨床試験結果を考察し,さらに海外の教科書ならびに信頼できる海外の学術雑誌に掲載された総説および治療ないし診療ガイドラインに基づき,本剤の効能又は効果として前記疾患等を追加すること,ならびに標準的と考えられる併用療法としての用法及び用量を追加することは妥当であると判断した. 本報告書「4.本療法の位置付けについて」に記載したように横紋筋肉腫については,肝芽腫や神経芽腫,髄芽腫と異なり初期化学療法の第1選択薬とせずに治療を行うことは不可能ではないものの,「3.裏付けとなるデータについて,臨床試験の試験成績に関する資料」に記載した如く,本剤が患者に対して十分な利益をもたらし得ると客観的に評価可能である. 本剤の投与量設定においては,一つの疾患においても治療研究グループや施設によって投与する薬剤の組み合わせや治療スケジュールならびに投与量が様々であるため,投与量を一つに限定することが不可能である.そこで本報告書では,各疾患に対する臨床試験の代表的なレジメンから頻用される用法・用量を比較・検討し,用量および用法の幅を設定した. 強力な併用化学療法による重篤な有害事象および合併症死が一定の頻度で発生することが懸念されるものの,本報告書「2.公知の取扱いについて」ならびに「3.裏付けとなるデータについて」で詳述したように,致死的疾患である悪性固形腫瘍から救命できる小児患者の割合を考慮するとともに,報告されている治療関連合併症死の割合が極めて低いことを考慮すると,本剤投与量を妥当と判断するとともに,国内における本剤の使用状況を鑑みると,適応拡大を行うことは妥当と判断した. |