療法名 | Cisplatin (シスプラチン:CDDP)を含んだ化学療法 | ||||||||||||||||||||
未承認効能・効果を含む医薬品名 | Cisplatin (シスプラチン:CDDP) | ||||||||||||||||||||
未承認用法・用量を含む医薬品名 | |||||||||||||||||||||
予定効能・効果 | 再発、難反応性悪性リンパ腫の救援化学療法 | ||||||||||||||||||||
予定用法・用量 | CDDPを100 mg/m2持続点滴 1日1回、もしくは 25 mg/m2持続点滴 4日間(総量100 mg/m2)。(代表的な併用療法を下記に示す)。少なくとも3週間休薬する。これを1クールとし、投与を繰り返す。なお、投与量は疾患、症状により適宜増減する。 |
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CDDP療法において参考となる薬剤の組み合わせ | DHAP療法
ESHAP療法
(使用する薬剤をすべて記載。、適応外効能・効果、用法・用量を含む医薬品に下線。適応外用法・用量に下線。) |
(1) 無作為化比較試験等の公表論文
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(2) 教科書
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(3) peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス
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(4) 学会又は組織・機構の診療ガイドライン CDDPもしくはDHAP, ESHAPとしてのガイドラインはないが、救援化学療法に奏効するaggressive non-Hodgkin's lymphoma (NHL)に対する自家造血幹細胞移植併用の大量化学療法とconventional化学療法を比較し、救援化学療法に奏効した症例には大量化学療法をすることが標準的治療であることを検証したParma study (Philip T, et al. N Engl J Med)で使用された救援化学療法がDHAPである。DHAPそのものが他の救援化学療法に比べ最も優れているという報告は無いが、最も代表的な救援化学療法として、他の救援化学療法の第II相試験での論文報告には必ず比較引用がされる。Parma studyの結果を受けて、救援化学療法に奏効するaggressive NHLに対しては自家造血幹細胞移植併用の大量化学療法の実施が標準的治療法となることが、Parma studyのDHAP療法に引き続く大量化学療法を引用する形で日本造血細胞移植学会のガイドライン(造血幹細胞移植の適応ガイドライン、p53)に記載されている。http://www.jshct.com/about_guideline.html |
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(5) 総評 再発、難治性の悪性リンパ腫に対するCDDPを含むDHAP療法、ESHAP療法について、今までに報告された試験結果を考察し、以下の理由により有効性、安全性は医学・薬学上、認められると考えられる。
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臨床試験の試験成績に関する資料 | |
1 Velasquez WS, Cabanillas F, Salvador P, McLaughlin P, Fridrik M, Tucker S, Jagannath S, Hagemeister FB, Redman JR, Swan F, et al. Effective salvage therapy for lymphoma with cisplatin in combination with high-dose Ara-C and dexamethasone (DHAP). Blood. 1988 Jan;71(1):117-22. 90症例の再発性リンパ腫(低悪性度13例、中悪性度72例、高悪性度5例;治療抵抗性52例、寛解後再発38例、20-78歳)に対し、DHAP療法(デキサメサゾン40 mg/day IV days 1-4、シスプラチン100 mg/m2 持続点滴 1日 day 1、シタラビン 2000 mg/m2 IV 1日2回12時間毎、1日間 day 2)を3-4週間隔で6-10コース実施した結果、%CR, %PRは各31%、26.5%であり、11ヶ月の観察期間中央値での2年生存割合は25%であった。低腫瘍量かつ正常LDH値の症例では%CRは67%、2年生存割合が61%と優れた成績を示したが、高腫瘍量かつ高LDH値の症例では%CRは0%、1年生存割合も5%と予後不良の成績を示した。主な毒性は骨髄抑制で、300/μl未満の好中球減少症、20,000/μl未満の血小板減少症は各々、53%、39%であった。好中球減少症に伴う細菌感染もしくは真菌感染症は28例に認められ、10例が敗血症で死亡した。なお、本試験当時、G-CSFは上市されていなかったため、G-CSFなどの好中球増加成長因子は使用されなかった。CDDPによる治療前値の2倍以上のクレアチニン上昇が14例に認められ、非可逆的なクレアチニン上昇が4例(4.4%)に認められたが、60歳を超える高齢症例や、CDDPの蓄積投与量が300mg/m2を越える症例に多く認められた。CDDP の毒性として軽度の脱力は高頻度で認められたが、CDDPによると思われる重症の末梢神経炎が4例に認められ、これらの症例ではCDDPは中止された。耳鳴りが4例では強く認められ、別の3例では重度の難聴が認められた。高腫瘍量かつ高LDH値の症例の5例でtumor lysis syndromeが認められ、内3例が死亡した。治療関連死亡として、好中球減少症に伴う敗血症10例、tumor lysis syndromeに伴う多臓器不全3例、呼吸不全2例が認められた。シタラビンによる急性神経毒性は稀であり、1例に重症の小脳失調を認めたが、その症例は以前にリンパ腫の髄膜浸潤のためにシタラビンの髄腔内投与を受けたことがある症例であった。(Blood. 1988 Jan;71(1):117-22)。本試験が実施された1984年から86年においては、G-CSFが未開発であり、G-CSFをはじめとする感染予防の薬品・技術が進歩した現在では好中球減少時の感染症死亡率はきわめて低いものと推定される。また、本試験は78歳までの症例に対して実施され、高齢者を中心に非可逆性の腎毒性を認めたが、自家造血幹細胞移植の適応年齢である60-65歳未満の症例で、かつDHAP2コースで奏効を示す症例には大量化学療法を実施することになるため、CDDPの蓄積投与量は200 mg/m2であり、重篤な非可逆的腎毒性の頻度は減少するものと推定される。 2. Philip T, Guglielmi C. Hagenbeek A. et al. Autologous bone marrow transplantation as compared with salvage chemotherapy in relapses of chemotherapy-sensitive non-Hodgkin’s lymphoma. N Engl J Med 1995 333:1540-1545 Parma グループはaggressive NHLの再発215症例にDHAP療法(dexamethasone、high-dose Ara-C、CDDP)を2コース実施しCRもしくは部分寛解(PR)となったいわゆるchemotherapy-sensitive再発症例の109例(全奏効割合58%)に対し、conventional therapyであるDHAP療法を4コース続けた後に、再発時5 cmを越えるbulky massに照射を加える(involved field radiation therapy, IFRT)群と、IFRT後にABMTを併用した大量化学療法(BEAC療法)を実施する群とのランダム化比較試験を実施した。1995年に報告されたその結果では、5年のevent free survival(eventは再発、増悪、原因を問わない全ての死亡)はABMT群が46%、DHAP群が12%(p=0.001)、overall survivalではABMT群が53%、DHAP群が32%(p=0.038)と2群間に統計学的有意差を認めた。
3. Velasquez WS, McLaughlin P, Tucker S, Hagemeister FB, Swan F, Rodriguez MA, Romaguera J, Rubenstein E, Cabanillas F. ESHAP--an effective chemotherapy regimen in refractory and relapsing lymphoma: a 4-year follow-up study. J Clin Oncol. 1994 Jun;12(6):1169-76. CDDPを使用したDHAP療法以外の多剤併用救援化学療法としてESHAP療法がある。本レジメンはDHAP療法を開発したM. D. Anderson Cancer Centerにより開発されたもので、DHAP療法で認められた腎毒性などの有害事象の軽減を目的としてCDDPを4日間の持続点滴とし、Ara-CもDHAPの1日2回投与を、1日1回投与に減量して骨髄毒性の軽減を図り、抗腫瘍効果の増強を目的としてetoposideを併用した治療法である(etoposide 40mg/m2点滴IV, 4日間 (days 1-4), methylprednisolone 250-500 mg/ day点滴IV, 5日間 (days 1-5), cisplatin 25 mg/m2持続点滴, 4日間(総量100 mg/m2 (days 1-4), cytarabine 2 g/m2 持1日1回、1日間 (day5)。122症例の再発難治性リンパ腫{低悪性度34例、中悪性度67例、高悪性度3例、低悪性度からの組織転化18例;寛解後再発69例、治療抵抗性53例;年齢18-78歳(中央値53歳)}に対してESHAP療法が投与された。奏効症例に対しては3-4週間間隔で最大6-8コースが投与された。結果、%CR, %PRは各37%、27%で、3年生存割合は31%であった。CR持続期間中央値は20ヶ月で、40ヶ月の時点で無病生存の割合は10%しかなく、本レジメンでの高い奏効性により、より多くの症例を大量化学療法の適応とすることに意義があると思われた。主な毒性は骨髄抑制であり、好中球減少症(最低値中央値500/μl)、血小板減少症(最低値中央値70,000/μl)が認められた。この試験でもG-CSFなどの造血器growth factorは、当時上市されていなかったため、使用されなかった。そのため、好中球減少症は2-8日間持続し、30%(37例)の症例に好中球減少性発熱が認められ、入院の上、抗生剤投与を必要とし、5例が感染症で死亡した。高齢の1例が輸液負荷による循環器障害で死亡した。治療前値の2倍以上の血清クレアチニン上昇は、治療奏効のため2コース以上投与された症例を中心に22%(27例)に認められた。クレアチニン上昇は殆どの症例で一過性であったが、4%(5例)に永続的な上昇が認められ、これらの症例ではCDDP投与を中止した。嘔気・嘔吐、下痢などの消化器毒性は55%(67例)に認められたかが、軽微なものであった(Grade I-IIの嘔気・嘔吐は60例に、Grade IIIの嘔気・嘔吐は7例に認められた)。軽微〜中程度の疲労感、末梢神経症、低マグネシウム血症、低カリウム血症、貧血が奏効例を中心に認められた。CRに到達した1例が、化療終了後に病変部位の脳に照射を受け3年後に多巣性白質脳症と診断された。本試験では、122例中、治療関連死亡は6例(感染症5例、循環器障害1例)であり、G-CSFが使用可能な現在では、抗腫瘍化学療法を熟知した医師であれば安全性はさらに担保されるものと判断する。 4. Philip T, Chauvin F, Armitage J, Bron D, Hagenbeek A, Biron P, Spitzer G, Velasquez W, Weisenburger DD, Fernandez-Ranada J, et al. Parma international protocol: pilot study of DHAP followed by involved-field radiotherapy and BEAC with autologous bone marrow transplantation. Blood. 1991 Apr 1;77(7):1587-92. Parma studyに先だって1987年から1987年にかけて50例に実施されたpilot study(再発難治性中悪性度非ホジキンリンパ腫に対するDHAP療法後の自家造血幹細胞移植併用大量化学療法)でのDHAP療法での治療関連死亡はhemolytic uremic syndromeの1例であった。腎障害は7例(14%)に認められ、十分な利尿などの注意がCDDP使用に際して必要であるが、許容できる範囲内の毒性であると判断され、本試験であるランダム化比較試験(Parma study)が実施された。 |
他剤、他の組み合わせとの比較等について | ||||
再発Aggressive NHLに対するsalvage regimen間でのランダム化試験の報告はなく、各報告のデータを示す。 EPOCH, CEPP-B, MINE, IMVP-16の%CR, %PR, median survival
Blood 1997;10:4201-5. Chao NJ, Rosenberg SA, Horning SJ. CEPP(B): an effective and well-tolerated regimen in poor-risk, aggressive non-Hodgkin’s lymphoma. Blood 1990;76:1293-8. Cabanillas F, Hagemeister FB, Bodey GP, et al: IMVP-16: an effective regimen for patients with lymphoma who have relapsed after initial combination chemotherapy. Blood1982;60:693-7. Cabanillas F, Hagemeister F, McLaughlin P, et al. Results of MIME salvage regimen for recurrent or refractory lym-phoma. J Clin Oncol 1987;5:407-12.
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公表論文等 | ||||||||
(要旨は別紙参照) 表在リンパ節及び腹腔内に再発したリンパ腫に対しDHAP療法を構成する薬剤の内で、CDDPをCBDCAに置き換えた改変DHAP療法を施行し、一時的に表在リンパ節の縮小が見られた。(終了2週後に再発。)
非ホジキンリンパ腫の再燃時にESHAP療法2回を施行し、その後、頸椎への放射線照射(30Gy)を行っている。
非ホジキンリンパ腫(stageIV)と診断されCHOP療法を行ったが、無効であったためESHAP療法(VP 16 mg , CDDP 40 mgを1〜4日目、Ara-C 3 gを5日目、mPSL 500mgを1〜5日目に投与)をサルベージ療法として使用した。(腫瘤の縮小は認められなかった。)
学会シンポジウムの要約論文である。慶応大学を中心としてprospective studyとして、再発例のみならず初発高リスク群にも大量化学療法前の治療としてESHAP療法を使用していることが記載されている。 以上のように、臨床血液学会などの症例報告の学会誌に掲載が多く、実際の臨床現場で相当数の使用があるものと推定される。 |
DHAPは公表時(試験実施は1984年から1986年)の主な毒性は骨髄抑制であり、それに伴う重症感染症で登録全90症例中10症例の死亡例が報告されている。またESHAPでも主な毒性は骨髄抑制であった。しかし、G-CSFが使用できなかったこれらの臨床試験当時とは異なり、現在ではG-CSFの使用により、骨髄抑制に伴う好中球減少による重症感染症は十分な対応が可能となっているため、適切にG-CSFを使用し、十分な感染予防対策をとることで致命的な重症感染症の頻度は、きわめて低くなるものと推定される。事実、G-CSFが使用可能であったParma studyではDHAPでの感染症死は認められなかった。また、ほぼ全例にgrade 4の好中球減少症が観察される救援化学療法であるCHASE療法でも、重篤な感染症および治療関連死亡は1例も認めずに治療を実施できていて、GCSF、輸血、抗生物質の支持療法を熟知した腫瘍専門医が治療を行うのであれば安全に行える治療であり、安全性は担保できると判断した(Ogura M, Kagami Y, Taji H, et al. Phase I/II Study of New Salvage Therapy (CHASE) for Refractory or Relapsed Malignant Lymphomas. Int J Hematol.77;503-511, 2003。) CDDP使用による腎毒性については、DHAPの90症例中4例、ESHAPの122症例中5例に永続的なクレアチニンレベルの上昇が認められたと報告されている。DHAP療法では、60歳以上の症例や300mg/m2以上の蓄積投与量の症例に多く認められたとしている。また、Parma studyでDHAP2コース後に大量化学療法を受けた治療群では、grade 3以上の腎毒性を認めなかったとされ、大量化学療法を前提とした救援化学療法としてのDHAP療法では十分な注意をすることで、重篤な腎毒性の発症は低いものと推定される。当然ではあるが、DHAP, ESHAPレジメンを実施するに当たっては、十分な輸液を行うことで尿量を確保し腎障害を最小限にする必要がある。また、DHAP療法の原著では、血清クレアチニンレベルが1.5-2.0mg/mLでCDDPを75mg/m2に、2.1-3.0 mg/mLで50mg/ m2に各々減量することとしている。 CDDPは60歳以上の高齢者、CDDPの投与歴を有する症例、クレアチニンレベルの高い症例では、特に慎重投与、減量投与に十分注意して、熟練した医師が化学療法を行うことで安全性は担保できると判断した。 CDDPによる重度の消化器毒性は1984-86年のDHAPの試験実施期には、強力な制吐剤である5HT3 antagonistが上市されておらず、1988年の公表論文での重度の消化器毒性の頻度は20%であったが、1991年に公表されたParma studyのpilot studyでは重篤な消化器毒性は4%と著減していた。Dexamethasone(1日40 mg)を併用するDHAP療法では、5HT3 antagonistを予防投与でdexamethasoneと併用する投与法をとることになり、重度の悪心・嘔吐の発症予防がより期待できる{Italian Group For Antiemetic Research. Randomized, double-blind, dose-finding study of dexamethasone in preventing acute emesis induced by anthracyclines, carboplatin, or cyclophosphamide:.J Clin Oncol. 2004 Feb 15;22(4):725-9. : 本論文では、dexamethasone 8mg(経静脈投与)を5HT3 antagonistと併用することが、化療後の急性の嘔気予防に優れているとされた}。 CDDPはgerm cell tumorなどにおけるBEP療法と同様の使用法であり、CDDP使用に習熟している医師であれば問題ないが、CDDP使用に習熟していない場合には添付文書などにおけるCDDP使用上の注意を十分に理解して上で、CDDP使用を熟知した医師の指導の基で実施することが重要と判断する。腫瘍に対する化学療法を熟知した医師が常勤する病院での使用とすることで、総合的な安全性が担保できると判断した。 国内では、まとまった症例数での臨床試験報告はなく、実地医療で本レジメンが使用されていると思われる。 |
本剤(CDDP)の投与量はDHAPで100 mg/m2持続点滴、1日間、ESHAPで25 mg/m2持続点滴 4日間(総量100 mg/m2)であり、既承認の癌腫での使用法と同様である。 |
DHAP, ESHAPで使用されるCDDPの用法・用量はBEP療法などで使用され、添付文書のF法、G法として記載されている用法・用量とほぼ同等の用法・用量であり、妥当なものであると判断する。 DHAP, ESHAP療法ともに用量設定の試験の報告はなく、開発されたMD Anderson Cancer Centerでの検討により、phase II studyとして試験されたものである。しかし、DHAP療法で試験されたCDDPの用法・用量は、Parma pilot study, Parma studyなどで、計300例以上の症例のデータの蓄積があり、有効性、毒性の点に於いて妥当な用法・用量と判断される。CDDPのさらなる高用量については、腎毒性の点から検証する必要性、妥当性はないと考える。リンパ腫でのCDDPの用法・用量は、BEP療法などと同等の用法・用量であり、報告されている論文の毒性から、high-dose Ara-Cもしくはhigh-dose Ara-C+etoposideとの併用でも、血液毒性と腎毒性が重要な毒性であるが、血液毒性は可逆的であり、化学療法およびGCSF、輸血、抗生物質の支持療法を熟知した医師が治療を行うのであれば安全に行える治療であり、安全性は担保できると判断した。78歳までの症例の6-10コースの投与で非可逆的な腎毒性の頻度が4%ほどであることから(Blood. 1988 Jan;71(1):117-22.、J Clin Oncol. 1994 Jun;12(6):1169-76.)、年齢、蓄積量、血清クレアチニンレベル、投与コース数などに注意して慎重な使用をすることで、腎毒性の点からも妥当な用法・用量であると判断される。 |