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E型肝炎ウイルスの感染事例・E型肝炎Q&A
食肉を介するE型肝炎ウイルス感染事例について
(E型肝炎Q&A)
我が国では2003年4月の兵庫県における野生シカ肉の生食を原因とするE型肝炎ウイルス食中毒事例が、特定の食品の摂食とE型急性肝炎発症との間の直接的な因果関係を確認した最初の事例となりました。また、英科学誌「Journal of General Virology」2003年9月号掲載の報告では、北海道で市販されていた生豚レバーの一部からE型肝炎ウイルスの遺伝子が検出され、加熱不十分な豚レバーから人への感染の可能性も示唆されています。さらに、2005年3月に福岡県で野生イノシシ肉を喫食した11名中1名が、E型肝炎を発症し、ウイルス遺伝子検査でイノシシ肉との因果関係が確認された事例も報告されています。
厚生労働省ではこれらの事例を踏まえ、E型肝炎予防に関する情報提供を目的として、次のとおりE型肝炎に関するQ&Aを作成しました。
今後、E型肝炎に関する知見の進展等に対応して、逐次、本Q&Aを更新していくこととしています。
なお、豚レバーを含む豚肉並びにシカ及びイノシシなどの野生動物の肉を安全に喫食する為の注意点について、下記にとりまとめましたのでご参考としていただきますようお願いします。
・ |
豚レバーを含む豚肉並びにシカ及びイノシシなどの野生動物の肉(内蔵を含む。)は生で食べないようにしましょう。 |
・ |
豚肉並びにシカ及びイノシシなどの野生動物の肉は中心部まで火が通るよう、十分に加熱して食べましょう。このような加熱はほとんどの危険な微生物を死滅させることが確認されています。また、他の動物の肉については、若齢者や高齢者など抵抗力の弱い方は生肉の摂取を控えるようにしましょう。 |
・ |
加熱調理を行う肉類は生焼けにならないよう中心部まで十分に火が通るよう、十分に加熱してください。 |
・ |
生の肉類と加熱済みの肉類は分けて取り扱いましょう。取り扱う箸や皿も区別して使用してください。 |
<目次>
A |
E型肝炎は、E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus、以下「HEV」という。)の感染によって引き起こされる急性肝炎(稀に劇症肝炎)で、慢性化することはありません。HEVは主として経口感染しますが、ごく稀に、感染初期にウイルス血症をおこしている患者(あるいは不顕性感染者)の血液を介して感染することもあります。E型肝炎は開発途上国に常在し散発的に発生している疾患ですが、時として汚染された飲料水などを介し大規模な流行を引き起こす場合もあることが知られています。一方、先進国においては、開発途上国への旅行者の感染事例が多かったことから、専ら「輸入感染症」として認識されて来ましたが、近年、渡航歴のない「国内発症例」も散見されるようになり、しかも、そのような例から採取されたHEV株は、それぞれの地域に特有の「土着株」であることが明らかになって来ました。自然界における感染のサイクルは未だ不明ですが、豚やシカ、イノシシなどの動物からもヒトのHEVに酷似するウイルスが検出されていることや、動物からヒトへの感染事例の報告もされていることから、今では本疾患は人獣共通感染症として捉えられています。
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ウイルス肝炎の病型と病原ウイルス
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A型肝炎 |
B型肝炎 |
C型肝炎 |
D型肝炎 |
E型肝炎 |
原因ウイルス |
HAV |
HBV |
HCV |
HDV (+HBV) |
HEV |
分類 |
ピコルナウイルス科 |
ヘパドナウイルス科 |
フラビウイルス科 |
サテライトウイルス科 |
ヘペウイルス科 |
主な感染経路 |
経口 |
血液 |
血液 |
血液 |
経口 |
潜伏期間 |
2〜6週 |
1〜6ヶ月位 |
2週間〜6ヶ月位 |
B型肝炎に類似 |
2〜9週間(平均6週間) |
感染の特徴 |
・ |
一過性の感染。 |
・ |
キャリア化することはない。 |
・ |
治癒後に終生免疫が成立。 |
・ |
急性肝炎発症例では、38℃以上の高熱を伴って発症。 |
・ |
発熱後数日を経て、全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、右季肋部痛などが現れ、その後褐色尿、黄疸が現れる。 |
・ |
成人例では腎不全を伴うことがある。 |
・ |
成人が感染した場合、不顕性感染で終わることは少なく、重症化することがある。 |
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・ |
一般に成人が初めてHBVに感染した場合は一過性の感染。ただし、成人感染でもキャリア化するケースが最近報告されている。 |
・ |
急性肝炎を発症する場合と発症しない場合(不顕性感染)とがある。 |
・ |
治癒後に終生免疫が成立。 |
・ |
特にHBe抗原陽性の母親から生まれた児では、感染を予防せずに放置すると高率(80%以上)にキャリア化する。 |
・ |
乳幼児期に感染した場合にもキャリア化することがある。 |
・ |
HBVキャリアの一部は慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝がん)を発症する。 |
・ |
わが国には慢性肝疾患患者を含めて、100万人から150万人のHBVキャリアがおり、そのほとんどは検査をしなければわからない(自覚症状がない)無症候性のキャリアであることが知られている。 |
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・ |
成人が初めてHCVに感染した場合、そのほとんどは、自覚症状がないまま経過し(不顕性感染)、約30%は一過性の感染で治り、約70%はキャリア化することが知られている。 |
・ |
HCVキャリアの母親から生まれた児がHCVに感染してキャリア化する率は2〜3%程度に止まる。 |
・ |
HCVキャリアでは、HBVキャリアに比して慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝がん)を発病する率が高い。 |
・ |
C型慢性肝疾患患者を除いて、わが国には150万人前後のHCVキャリアが存在することが知られている。 |
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・ |
かつてデルタ(δ)肝炎と呼ばれていたもの。 |
・ |
HDVは、HBVに感染している人にのみ感染する(HBVをヘルパーウイルスとする)不完全ウイルスである。 |
・ |
わが国にはHDV感染例は少ない。 |
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・ |
一過性の感染。 |
・ |
キャリア化することはない。 |
・ |
終生免疫が成立するか否かは不明。 |
・ |
急性肝炎を発症した場合はA型肝炎に類似。 |
・ |
稀に劇症化することあり。 |
・ |
妊婦がHEVに感染して発症した場合には、劇症化する率が高いと言われている。 |
・ |
人獣共通感染症と認識されている唯一の肝炎ウイルスである。 |
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キャリアの有無 |
無 |
有 |
有 |
無 |
無 |
肝がんとの関係 |
無 |
有 |
有 |
無 |
無 |
劇症化 |
あり |
あり |
稀 |
あり |
あり |
診断法 |
・ |
血清学的検査:ペア血清によるHAV抗体価の上昇、IgM HAV抗体の検出 |
・ |
核酸増幅検査(NAT): HAV RNAの検出 |
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・ |
血清学的検査: HBs抗原の検出(ペア血清によるHBc抗体価を併用することが望ましい)、ペア血清によるHBc抗体価の上昇、HBc抗体価の測定(HBVキャリアとの鑑別)、IgM HBc抗体の検出 |
・ |
核酸増幅検査: HBV DNAの検出 |
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・ |
血清学的検査: HCV抗体の検出、HCVコア抗原の検出 |
・ |
核酸増幅検査: HCV RNAの検出 |
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・ |
血清学的検査:HDV抗体の検出、肝内のHDV抗原(デルタ抗原)の検出 |
・ |
核酸増幅検査: HDV RNAの検出 |
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・ |
血清学的検査:ペア血清によるHEV抗体価の上昇、IgM HEV抗体の検出 |
・ |
核酸増幅検査: HEV RNAの検出 |
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治療法 |
急性期の対症療法 |
ラミブジン等にいる抗ウイルス療法、グリチルリチン、ウルソデスオキシコール酸等による抗炎症療法 |
インターフェロン、リバビリン等による抗ウイルス療法、グリチルリチン、ウルソデスオキシコール酸等による抗炎症療法 |
(Bの治療がDの治療) |
急性期の対症療法 |
ワクチン |
HAV ワクチン |
HB ワクチン
(場合によりHBIGを併用) |
今のところなし |
HB ワクチン
(HBVの予防がHDVの予防) |
HEワクチン開発中
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A |
HEVに感染した場合、不顕性感染が多いとされています(特に若年者)。肝炎を発症した場合の臨床症状はA型肝炎に類似し、高率に黄疸を伴います。平均6週間の潜伏期の後に(稀に数日の倦怠感、 食欲不振等の症状が先行することもあります)、発熱、悪心・腹痛等の消化器症状、肝腫大、肝機能の悪化(トランスアミナーゼ上昇・黄疸)が現れ、大半の症例では安静臥床(ベッドの上で動かずに安静を保つこと)により治癒しますが、まれに劇症化するケースもあります。
E型肝炎の特徴として、妊婦が妊娠晩期に感染すると劇症化しやすいという報告があります。また、患者の年齢については、インド等の流行地での経験から本症は「若年層の病気」といわれてきましたが、我が国やフランスでの調査によれば、むしろ「中高年男性の病気(平均年齢約50歳、男女比約4対1)」といえます。また、高齢者ほど重症化しやすいとされています。
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A |
感染経路は経口感染であり、HEVに汚染された食物、水等の摂取により感染することが多いとされています。ヒトからヒトへの感染については、くしゃみなどによる飛沫や接触による感染は報告されていませんが、輸血による感染例が報告されています。
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A |
血清学的検査では、IgM抗体、IgA抗体の検出によって診断します(まれに擬陽性や擬陰性がみられます)。
確実な診断法としては、核酸増幅検査(NAT、RT-PCR)によるHEV RNAの検出があげられます。
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A |
E型肝炎の治療方法は、現在のところ急性期の対症療法しかありません。劇症化した場合には、さらに血漿交換、人工肝補助療法、肝移植などの特殊治療が必要となります。
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A |
HAV及びHEVの感染経路は経口感染であり、ウイルスに汚染された食物、水の摂取により感染することが多いので、予防には手洗い、飲食物の加熱が重要です。
E型肝炎流行地域へ旅行する際は、清潔の保証がない飲料水(氷入り清涼飲料を含む)、非加熱の貝類、自分自身で皮をむかない非調理の果物・野菜をとらないように注意する必要があります。
動物の内臓、特に豚レバーを食べる際には、中心部まで火が通るよう十分に加熱することが重要です。食べる前の調理の段階でも、皮膚の傷からウイルスが体内へ入ることのないよう注意してください(Q13、16及び17参照)。
なお、ワクチンは開発段階です。
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A |
E型肝炎は、中央アジアでの流行は秋に見られる一方、東南アジアでは雨期に、特に広範に洪水が起こった後に発生するといわれています。
E型肝炎は糞口感染経路によって伝播し、中でも水系感染による大流行がこれまでに報告されています。1955年、ニューデリーで急性肝炎の大流行が発生しましたが、これは糞便によって汚染された飲用上水が共通の感染源となっていました。この流行では黄疸性肝炎と診断された症例だけでも29,000人に及んでいます。これに似た水系感染による大流行が中央アジア、中国、北アフリカ、メキシコなどでも報告されています。近年においてもこのような大規模な流行がしばしば報告され、1991年、8万人近い集団感染が報告されたインドの例でも飲料水の汚染が原因でした。1986〜1991年には中国の新彊ウイグル自治区で4回にわたって大規模なE型肝炎の流行がみられています。毎年この地域では、秋季にHEV感染者が急激に増加する傾向にあるといわれています。
日本をはじめとする先進国でもE型肝炎の発生は時折見られ、その大部分は発展途上国で感染をうけ、帰国後発症した輸入感染例であると考えられてきましたが、近年、日本や米国などで海外渡航歴の無いE型肝炎の散発的な発生例が報告されるようになり、そのような国内感染例の一部は動物由来感染であることが判明しました。
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A |
日本では、E型肝炎を診断した医師に対しては、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、「感染症法」という。)に基づき、保健所に直ちに届出ることが義務づけられています(E型肝炎は「四類感染症」に分類)。届出を受けた保健所は、都道府県等を通じ厚生労働省に報告するとともに、感染症法及び食品衛生法の規定に基づき、感染源や感染時期、原因施設等について調査を行います。医師の届出を集計した感染症発生動向調査によると、1999年4月以降にE型肝炎と報告され、HEV感染が確認された患者は、1999年0例、2000年3例、2001年0例、2002年16例、2003年30例、2004年37例、2005年(1月〜8月)32例、計118例で、国内での感染が推定される患者の報告が2002年以降急増しています。一方、国外で感染したと推定される患者の報告も2003年以降増加しています。報告数の増加は、最近、RT-PCR法によるHEV遺伝子検出及びELISA法によるIgM抗体検出での確定診断が可能となったことを反映していると考えられます。季節性は明らかではありません。診断までに要した日数をみると、初診から10日以内に4分の1、19日以内に2分の1、28日以内に4分の3の患者が診断されており、多くの日数を要しています(病原微生物検出情報Vol.26 p 261-262E型肝炎 2005年8月現在)。
男性101例(国内例71例、国外例28例、不明2例)、女性17例(国内15例、国外2例)と、国内例、国外例とも圧倒的に男性が多いのが特徴です。国内例は男性が50代後半、女性は60代後半をピークに、ともに中高年が多いのに対し、国外例は20代〜30代前半が多いようです(病原微生物検出情報Vol.26 p 261-262E型肝炎 2005年8月現在)。
一方で、論文・学会等で発表されたデータによれば、同期間(1999-2002年)内に10例以上の国内感染例が存在しており、厚生労働省のE型肝炎研究班が行った全国調査によると、集計した254例を解析した結果、輸入感染例の10倍の頻度で国内感染例が存在すると報告されていることから、日本におけるE型急性肝炎の発生はさらに多く存在すると推定されます(肝臓 47巻8号 384-391(2006))。
また、1993年に採血された日本の健常人の血清におけるHEV 抗体保有率は5.4%(49/900)で、20代以下では非常に低く(0.4%)、30代(6.2%)、40代(16%)、50代(23%)と年齢が高いほど保有率も高いことが報告されています。
なお、前述の研究班の調査によれば、全体の31%が動物由来感染(食肉由来)であると推定され、輸入感染が7.9%、輸血感染の確定例が2.3%存在したとされていますが、58%の症例は「感染経路不明」であると報告されています(肝臓 47巻8号 384-391(2006))。
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Q9 |
食品を通じて感染した事例はどのようなものが報告されていますか?
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A |
従来、国内でも国外でも、特定の食品の摂食とE型肝炎の発症との関係が直接的に確認された事例の報告はありませんでした。
しかし、2003年4月に兵庫県で冷凍シカ肉を喫食した2家族7名中4名が発症し、急性期の血清からHEV-IgM抗体及びHEV遺伝子が検出され、冷凍シカ肉残品から検出されたHEVの遺伝子配列が患者から検出されたHEV遺伝子のものとほぼ一致したことが報告され、これが食品の摂食とE型肝炎の発症との直接的な関係が確認された世界初の事例になりました(Lancet 2003; 362: 371-3)。更には、2005年3月に福岡県で野生イノシシ肉を喫食した11名中1名が発症し、イノシシ肉残品からHEVが検出され、患者血清から検出されたHEVの遺伝子配列と一致した事例もあります(Emerging Infectious Diseases 2005; 11: 1958-60)。
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Q10 |
どのような動物でHEV感染が確認されていますか
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A |
近年、先進国においてHEV常在地への渡航歴のない急性肝炎患者からHEVが検出され、そのHEVの遺伝子が当該地の豚から採取されるHEVの遺伝子と極めて類似していることが示されるなど、本疾患が人獣共通感染症である可能性が示唆されてきました。
また、各種の動物がHEVに感受性のあることが示され、日本の豚について行われた調査では生後60日の豚73頭中2頭と生後90日の豚22頭中1頭の血清からHEV遺伝子が検出された他、生後1〜6ヶ月の豚の糞便からもHEV遺伝子が検出されています。また、31農場の血清について抗体検査を実施したところ、30農場の豚で抗体陽性でした。抗体陽性農場では4−5ヶ月で100%の豚が抗体を保有し、ウイルス検出(RT-PCR)検査では、2−3ヶ月齢のすべての豚から検出されたとの報告があります(平成15年度厚生労働科学特別研究事業「食品に由来するE型肝炎ウイルスのリスク評価に関する研究」)。
野生イノシシにおいても、地域の差はあるものの、10-50%の個体がIgG抗体陽性であり、5-10%の個体の血液、肝臓からHEV遺伝子が検出されています。前述のように、イノシシ肉からヒトへの感染も証明されています(Q9)。
わが国の野生シカにおいては、抗体をもつ個体は極めて少数であり、HEVのリザーバーとは考えにくいのですが、シカ肉からヒトへの直接伝播が報告されているので注意が必要です。
また、1997年に、ヒトのHEVと同じHEVが豚にも存在することが初めて報告されて以来、今日までに、シカ、イノシシ、ウマ、ラット、マングースからHEV遺伝子が検出され、その他にも牛、山羊、ネコなど多種動物からのHEV抗体検出の報告があり、感染を確認する取組みが進められています。
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Q11 |
市販の豚レバーからHEVの遺伝子が検出され、E型肝炎患者発生との関連の可能性がある等の報告がされているとのことですが、どのような報告ですか?
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A |
2003年9月発行のJournal of General Virologyでは、北海道の食料品店で市販されていた包装済みの豚生レバー363件中7件(1.9%)からHEV遺伝子が検出され、そのひとつは北海道在住の86歳の患者から分離されたHEVと遺伝子配列が100%一致したことが報告されました。さらにE型肝炎に感染した患者10人のうち9人(90%)が、発症前の2〜8週の間に焼いた又は加熱不十分な豚レバーの喫食歴を有していました。この報告では、以前から豚レバーを食している患者がなぜ今回感染したのか、当該豚レバーには感染力があるE型感染ウイルスが存在したのかなど、解明するべき疑問はあるものの、加熱不十分な豚レバーが人にHEVを感染させる可能性が指摘されています。
なお、同一の豚レバーを食べた患者家族からの聞き取り調査およびHEV抗体検査により、十分に加熱して摂食した家族では感染がなかったことが分かっています。
2004年11月には、北海道において1名のE型肝炎患者が発生し、患者と同じ飲食店を利用した者のうち6名がHEVに感染していたことが確認された事例があり、感染原因として飲食店で豚レバー等の豚肉由来の食品を十分に加熱しないで喫食した可能性があるという研究報告がありました(肝臓 45巻12号 688-688(2004))。北海道の調査の結果、共通の飲食店で喫食した複数グループから感染者が確認されましたが、感染源及び感染経路の特定には至りませんでした。
また、2006年2月から3月にかけて、北海道でE型肝炎を発症した4名について、血液から検出されたHEVの遺伝子配列がいずれも一致したという報告事例がありました。北海道及び札幌市の調査の結果によると、この4名の患者はそれぞれ発症前に豚の内臓を食べたことは確認されていますが、感染経路の特定には至らず共通の感染源があるかどうかは不明です。
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Q12 |
豚から検出されるHEVにはどのような特徴がありますか?
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A |
これまでの研究結果からは、豚はその育成中にHEVに高率に感染します(Q10参照)が、豚が通常出荷される6ヶ月齢の血液中からはHEVが消失しています。ただし、一部の個体では6ヶ月齢時においても糞便と肝臓にHEVがなお残存している、との報告がされています(平成15年度厚生労働科学研究事業「本邦に於けるE型肝炎の診断・予防・疫学に関する研究」)。
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Q13 |
豚レバーを始めとする豚由来の食品は安全ですか?
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A |
豚レバーをはじめとする豚肉については、生で食べないようにしましょう。また、加熱調理の際には中心部まで火が通るよう十分に加熱してください。豚レバーなどに万一ウイルスが残っていたとしても、十分に加熱調理を行えばHEVは感染性を失うため、豚レバーなどの豚由来食品を食べることによる感染の危険性はありません。ハム・ソーセージ等の加熱済み食品についても、HEVは、当該食品の加工時に行われる63℃で30分間と同等以上の熱処理で感染性を失うため、心配はありません。
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Q14 |
2003年8月に報告された野生のシカ肉の刺身を食べてE型肝炎を発症した事例は、シカ肉の刺身の摂食が直接の原因になったのですか?
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A |
本事例は、特定のシカ肉を生で食べた4名が6〜7週間後にE型肝炎を発症し、患者から検出されたHEVと一部保存されていたシカ肉から検出されたHEVの遺伝子配列が一致したこと、当該シカ肉を全く食べていないか、又はごく少量しか食べなかった患者家族はHEVに感染しなかったことが確認され、特定の食品の摂食とE型急性肝炎発症との直接的な関係が確認された最初の事例とされています。
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Q15 |
日本ではシカ肉は食用として流通しているのですか?
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A |
日本に生息する野生のシカは、狩猟や有害鳥獣駆除によって全国で年間約10万頭捕獲されています。捕獲されたシカは食肉処理業者によって解体処理され、食肉として流通しています。年間300〜400トン程の消費があると言われており、うち国産は200〜300トンであると推定されます。
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Q16 |
シカやイノシシなど野生動物の肉等を生で食べても安全ですか?
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A |
シカやイノシシなど野生動物の肉等は生で食べないようにしましょう。
HEVは妊婦や高齢者、HBVあるいはHCVの持続感染者に感染すると劇症肝炎を発症し、死亡する率が高いという研究結果があることから、妊婦及び高齢者は特に野生動物の肉等を生で食べることを避けるべきです。
野生動物が人獣共通感染症や食中毒の原因となる病原微生物、寄生虫類等を保有している可能性は、常に念頭におく必要があります。過去にも、野生動物の肉の生食は腸管出血性大腸菌感染症やトリヒナ症及び肺吸虫症等の原因となっています。これらの病原体は一般に通常の加熱によって死滅することが知られていることから、野生動物の肉等を食べる際には中心部まで火が通るよう十分に加熱を行うことにより感染を予防することができます。
なお、2003年に報告された事例は、シカ肉中から検出されたHEVの濃度が高いため、処理の過程で肝臓から汚染されたのではなく、シカ肉内に残留する血液中に含まれていたHEVが感染源となった可能性が高いと考えられます。
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Q17 |
シカやイノシシ、豚以外の食肉は心配ないのですか?
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A |
めん羊、山羊からもHEV抗体が検出されるとの報告がありますが、加熱調理を行うことによりHEVは感染性を失うため、中心部まで火が通るよう十分に加熱すれば食肉による感染の危険性はありません。
なお、厚生労働省では腸管出血性大腸菌食中毒予防の観点から若齢者、高齢者のほか抵抗力の弱い者については、生肉等を食べさせないよう従来から注意喚起を行っています。 |
<参考文献&リンク>
<Q&Aを作成するにあたって御協力を頂いた専門家>(50音順)
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岡本 宏明 |
先生(自治医科大学教授) |
鈴木 宏 |
先生((財)ウイルス肝炎研究財団理事) |
品川 邦汎 |
先生(岩手大学農学部教授) |
武田 直和 |
先生(国立感染症研究所ウイルス第二部第一室長) |
三代 俊治 |
先生(東芝病院研究部部長) |
宮村 達男 |
先生(国立感染症研究所長) |
吉倉 廣 |
先生(前国立感染症研究所長) |
吉澤 浩司 |
先生(広島大学大学院教授) |
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